「よし、早速構えてみるか。結構重たいから気をつけろよ」
 そう言いながら、浅野くんがあたしにベースを手渡す。

 受け取った瞬間、両手が床に強く引っ張られた。
「おもっ!」
 危うくベースを落としそうになり、なんとか持ちこたえる。
「だから言っただろ」
「そう言われても……」
「取り扱いに気をつけろ。今、音楽室にベースはこの一本しかない。壊したら自分で買うしかないんだからな」
「うう、気をつけます」
 いくらするの、とは怖くて聞けなかった。

「それじゃ、『ストラップ』を肩にかけな」
 えっと、「ストラップ」ってたぶんこれのことだよね。
 ベースのボディについている黒いベルトを左肩にかける。
 すると、ギターを弾いている時の浅野くんと同じようなシルエットが出来上がった。
 ふー! かっこいい、あたし!

「次は『アンプ』につなぐぞ。ちょっと待ってろ」
 あんぷ?

「これが『シールド』」
 そう言いながら浅野くんが持ってきたのは、黒くて太いケーブルだった。
「今からあんたのベースと、あそこにあるアンプを、このシールドでつなぐ」
 「アンプ」と言って浅野くんが指差した壁際には、大きな直方体の機械。細かいフェンスみたいな黒い網がけが側面いっぱいに広がっていて、てっぺん近くにはいくつかの端子や丸いつまみがある。

 浅野くんが、「シールド」と呼んだ太いケーブルの二つの先端を、アンプとあたしのベースとに一本ずつ突き刺した。

「弦を指ではじいてみて」
 浅野くんがアンプのスイッチをつけて少しつまみをいじってから、またあたしの前に来て言う。

 どうすればいいのかわからないまま、あたしはベースの一番上の弦を引っかくようにしてはじいた。
 ずっしりとした重みのある音が、第二音楽室に響き渡る。
 なんてかっこいい音……!
 この低くて深みのある音を自分が生み出したということが、すぐには信じられなかった。
 普段、音楽を聴いてても、どれがベースの音なのか、そもそもベースが鳴っているのか、全然わかってなかった。というか、そんなこと意識してすらなかった。
 こんなにかっこいい音に気づかず音楽を聴いてたなんて、あたしすごく損してたかも!

「じゃあ、今度はメトロノームに合わせて『指弾き』やってみるか。ちょっと待ってろ」