ハートがバキバキ鳴ってるの!

 浅野くん、これをあたしに渡す前、口に咥えてたよね?
 そんであたし、口でキャッチしたよね?

 てことは……。

 唇にピックの感触が蘇って、そこから顔中に熱が広がる。
 インフルエンザにかかった時よりも、ずっとずっと熱っぽい。
 体中の水分が、今すぐ湯気になっちゃいそう。
 
 あのときあたし、浅野くんと、か、か、かんせ——

「なんだよ、変な顔して」
 そう言って浅野くんが、どこかぎこちない足取りで歩いてきた。

 手を伸ばせば届く距離に、浅野くんがいる。
 今すぐ触れたいような、だけど触れたら体が弾け飛んじゃいそうな。
「ピックじゃ物足りなかったか?」
「あ、その……」

 ピックじゃ物足りなかったか。
 両手で頬を叩きながら、質問の意味を考える。
 落ち着いて、落ち着いて。
 えっと、演奏の話をしてるんだよね。
 「三曲目の最後、ピック弾きじゃ物足りなかったか」って意味のはず。

「うーん、物足りなかったってわけじゃないけど」
 たしかにピック弾きの音はかっこいいし、プラスチックと弦がこすれるあのザラザラした振動も心地よい。
 だけど、あたしは今のところ、どっちかというと指弾きの感触が好きだ。
 自分の指で直接触れながら、「こんな音でお願い!」って伝える感じがたまらないんだよね。
「なんだろう、あたしはやっぱり、直接触れるほうが好きっていうか——」
 内容を組み立てながら話し始めた、そのとき。

 ふいに、温もりが襲ってきた。
「————!」
 反射的に目を閉じる。
 真っ暗な視界、音のない教室。
 体中の感覚が、唇に集中していた。

 ゆっくりと目を開けると、あたしがいるのは天国だった。
 視界いっぱいにクリーム色。
 浅野くんのきれいな肌が、目と鼻の先にある。
 全身をほぐしてくれるような、やさしい匂い。

 少し乱れた浅野くんの息遣いは、今まで聴いた中で一番幸せな音色だった。