ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ふいに飛んできた直球の言葉に、声が出なくなる。
 
 右の拳をぎゅっと握った浅野くんが、一言一言に重みを乗せながら続けた。
「ずっと、自分を(だま)してた。いや、騙そうとしてた」
 自分を叱りつけるような、毅然とした声色。
「音楽なんかやらないほうが、おれのためになるんだって。勉強に集中するべきなんだって。理屈でがんじがらめになって、自分を守っていた」

 ばつの悪そうなその声に、不思議な種類の力強さを感じた。
 西園寺先生に反抗している時よりも、橋乃口からかばってくれた時よりも、ずっとずっと勇敢な浅野くんがそこにいた。

「もう少しで、自分についた嘘を押し通せそうだった。だけど、試験会場まで走ってきたあんたに、全部台無しにされたんだ。そのおかげで、おれは戻ってこれた」

 少しだけ開いていた窓から、からっとした風が吹き込んだ。
 夏の夜の涼しい空気が、サラサラの髪を静かに揺らす。

「あんた言ったよな、『なにが浅野くんのためになるのか、あたしはこれっぽっちも知らない』って」

 あたしがうなずくと、浅野くんの声色にいっそう力強さが増した。
「それは、おれも同じなんだ。将来のためにどうすべきかなんて、おれ自身にもわからない」

 言葉を切った浅野くんの瞳に、くっきりとあたしが描かれる。
「おれにわかるのは、今のおれに大切な存在はなにか、それだけだ」

 そう言って、いつになくまっすぐ見つめてくるから。
 恥ずかしくなって、つい目を背けた。
「うん……そう、かもね」
 浅野くんの言葉の意味を考える勇気が出ないまま、曖昧な返事を返す。

「あ、そうだ」
 話をそらす方法が、制服の胸ポケットに入っていた。
「これ、借りたままだった。ありがとう」
 ステージの上で浅野くんが貸してくれたピック。
 浅野くんがあたしに向かって投げたピック。

 あれ、ちょっと待って……。
 ライブ中は演奏のことで頭がいっぱいで、気がつかなかったけど。
 ステージの上で起きたことを今更理解して、ピックを持つ指先から汗が吹き出した。