ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

 後夜祭ライブが終わって三十分ほど経った下校時刻間際。
 軽音部の片付けを終えたあたしは、荷物を取るために教室へ向かった。 
 誰もいない教室。もうみんな帰ったのかな。
 職員室に鍵を取りに行かないといけないかもしれないと考えたけど、その必要はないとすぐに気がついた。

 窓際の席に、一人分の荷物が置かれたままだったから。
 ネイビーの肩掛けバッグと、黒色のギターケース。
 ぽっと胸に火が灯るのを感じた。

 近くにいるのかな。
 なんとなく、持ち主が来ないうちに帰りたい気がして、早足でロッカーへ向かい荷物をまとめた。
 スクールバッグのファスナーを閉めて、ベースを背負おうとしたその時。
「みかる」
 ふいに聞こえた声にドキリとしながら、振り返る。
 名前を呼んでもらえるのは、これで二回目だ。

「浅野、くん」
 口の中を通り抜けた声の感触が、くすぐったい。

 なんだか、浅野くんと話すのがすごく久しぶりな気がする。
 ライブ中はもちろん話すどころじゃなかったし、片付けの時間もなんとなく避けてしまっていたから、言葉を交わすのは今朝ぶりだ。

「えっと、おつかれ」
 とりあえずあいさつしてみたけど、浅野くんはなにも言わずに入り口付近で立ったままだ。
 なにか言いたげな顔。
 あたしを見たかと思えば、きまりが悪そうに目線を外したり。
「どうかした?」
「いや、その……」
 無理やり平静を装って尋ねてみると、浅野くんはうつむいて黙り込んでしまった。

 二人きりの教室。
 校舎のどこからか、文化祭の余韻を楽しむ騒ぎ声が聞こえる。

「あの、今日はありがとね。ライブに来てくれて、とってもうれしかった。だけど、無理させちゃったね」
 沈黙に耐えられなくて口を開くと、まず出てきたのはお礼の言葉、続いて謝罪だった。
 今朝はただただ無我夢中だったけど、いざ冷静に自分の行動を見つめると、じわじわと罪悪感が浮かんでくる。

「あたし、すごく勝手なことしたと思う」
 浅野くんのお母さんに失礼なこと言って。勉強に専念しようとしていた浅野くんを邪魔して。
「せっかく、きっぱり音楽を辞めようとしていたのに。あたしのわがままで、ごめん——」
「なに謝ってんだよ」
 ぴしゃりと言い放たれて口をつぐむと、浅野くんが意を決したように話し始めた。

「一回しか言わないからな。おれは、あんたに感謝してるんだ」