——ねえ、小四のあたし、聞こえる?
 この演奏が、あなたに届いてたらいいな。
 中学生になったあなたはもうね、やられっぱなしのユビナガオンナじゃないよ。

 調理実習でからかわれたあの日からずっと、「できないこと」から逃げていた。
 失敗したらバカにされるんじゃないかって、みじめな思いをするんじゃないかって。
 でもね、今考えたら、すごくもったいないことしてたなって思う。

 ベースを始めてからの毎日は、いつも「できないこと」と隣り合わせ。逃げ出したくなることが何度もあった。
 だけど、転んだりつまづきながら少しずつ前に進むことで、あたしの世界がぐんぐん広がったの。
 録音して自分の苦手に向き合ったり、慣れない弾き方に思い切ってチャレンジしたり。
 「できないこと」もまずはやってみることで、見える景色があるって知った。

 そんなステキな体験ができたのは、軽音部のみんなのおかげ。
 あたしをたくさん褒めて、自信をつけさせてくれるセラ先輩。
 あたしに次々課題を出して、前に進むきっかけをくれるモニ先輩。
 あたしの調子を気遣って、じっくり話を聞いてくれるテツ先輩。

 そして。
 あたしがくじけそうな時、いつでも手を引いてくれる浅野くん。

 それぞれがくれた宝物を大事に抱えながら、あたしはこれからもっともっと強くなっていくよ。
 
 ——曲が、最後のサビに入った。
 
 指弾きに戻してもよかったけど、ピック弾きの新鮮な感触にはまっちゃったあたしは、そのままピックで(フレーズは目一杯簡単にして)演奏し続けた。

 ちらっと右斜め後ろに目を向けると、モニ先輩が心の底からうれしそうな顔であたしを見ていた。

 ピック弾きは、いつもの指弾きとはまた違った音色が表現できる。
 指弾きの音は、デンデンとか、ボンボンみたいな、丸くてやさしい感じ。
 ピック弾きで出るのは、それよりもっと硬くて鋭い音(●●●●●●)

 ……そっか。
 この音だったんだ。
 響いているのは、ベースの音だけではなかった。
 あたし、今、すっごく——
 ハートがバキバキ(●●●●)鳴ってるの!