ハートがバキバキ鳴ってるの!

 はむっ!
 反射的に、唇でキャッチしていた。

 ほんのり人の体温が感じられるピックを咥えながら、持ち主に目を向ける。
 両手の空いた浅野くんは、試すような眼差しであたしを見ていた。
 
 これはつまり、「ピックで弾け」ってこと……?
 絶対イヤだよそんなの!
 だって、あたしは指弾きの才能を買われて入部したんだもん!
 苦手なことは無理にやらないのが、あたしのポリシー。
 しかも、こんなに大勢の前で慣れていない弾き方にチャレンジして、大恥かいたらどうするの!?

 ……だけど、受け取ってしまった以上、無視するのもなんだかなあ。
 ちょっとだけピックで弾いてみる? 
 でも、せっかく指弾きで完璧にマスターしたフレーズだし。
 ああ、もう! 知らんぷりしてソロ始めちゃえばよかった……。

 あたしの頭の中のぐるぐるを知ってか知らずか、浅野くんは容赦ない表情を浮かべたままこっちを見ている。
 
 テツ先輩は、あたしがいつ演奏を始めてもいいように正確なビートを刻んでいる。
 バンドの中心であるモニ先輩と目立ちたがり屋のセラ先輩は、物音一つ立てずベースソロに備えている。
 体育館を埋め尽くす何百人もの観客の目が、あたしに注がれている。
 あの中には、舞ちゃんもいる。
 『私の知らないみかるを見せて』と言った舞ちゃん。

 どう、しよう。

 すがるように浅野くんに目を向けるけど、その表情はちっとも緩んでいなかった。
 「さっさと弾け」とばかりに、ギロッとあたしをにらみつけている。
 いつも通りの浅野くんだ。
 ぶっきらぼうでちょっと怖い、入学初日から苦手だった目つき。
 だけど、その眼差しをしばらく浴びているうち、あたしは感じた。
 瞳の奥に、なにか激しい感情が渦巻いている。
 厳しいような、それでいてやさしいような、なんとも言えないメッセージ。

 直視できなくなって目線を下げると、浅野くんの白い右手が見えた。
 さっきまで、指板の上で弦を叩いていた手。
 慣れないタッピングに挑戦していた指先。 
 浅野くんの目と手を何度か交互に見て、はっと気づいた。
 さっき浅野くんが、わざわざ苦手な弾き方をしたのは……。

 こんな大勢の前、ほぼぶっつけ本番でピック弾きさせるなんて、いくらなんでも無茶振りだけど。
 手足が震えて、なんだかお腹も痛くなってきて、今すぐ逃げ出したいけど。

 もうこうなったら、思いっきりやってやる!
 大失敗したって、浅野くんのせいにしてやるんだから!