ハートがバキバキ鳴ってるの!

「あ、あの、ありがとうございます! ……はっ!」
 お辞儀しながら大声を出してしまったことに気づいて、両手で顔を隠した。
 客席からクスクスと笑い声が聞こえる。
 ひゃああ、やってしまった!
 せっかく、ここまでいい感じに振る舞えてたのに! 
 
 だけど、恥ずかしさを大きく上回る喜びが、どくどくと体中を駆け巡っていた。
 
 あの弓野会長に、褒められたんだ。
 リズム練習、ちゃんと頑張ってよかった。
 練習付き合ってくれてありがとう、浅野くん。

 そこまで考えた途端、また寂しさに包まれる。
 あたしの練習を見てくれた浅野くんが、今はまだここにいない。
 早く来て一緒に演奏してくれると、もうなにも言うことないんだけど。
 大丈夫かな。間に合うかな。

 ※ ※ ※

 それからメンバー紹介が終わったあと、セラ先輩がいくつか小話を披露して、会場がどっと盛り上がった。
 予定よりも若干MCを伸ばしてくれている様子だけど、それでも浅野くんは現れない。

 とうとう見切りをつけたらしいセラ先輩が、高らかに右手を上げて言った。
「それでは、次で最後の曲です! みんな、エネルギー残すなよー!」
 歓声に包まれる会場。
 後夜祭らしい熱気。
 雰囲気は最高だ。

 だけど、あたしはどうしても気が気でなかった。
 会長が置いていった紺色のギター。それから入り口や舞台袖、客席……。
 視線を動かし続ければどこかに浅野くんが現れるような気がして、目をキョロキョロさせる。
 だけど、体育館のどこにも、浅野くんの姿は見当たらない。
 やだよ、やだよ……。

「みかるん」
 右斜め後ろから名前を呼ばれてはっとする。
「集中」
 モニ先輩が、あたしにだけ聞こえるくらいの大きさで(ささや)いた。

「はい」
 うなずきながら、聞こえるかギリギリの声量で返す。

 すぐに気持ちを切り替えられそうにはなかったけど。
 先輩たちの最後の文化祭ライブを、あたしの不機嫌で台無しにしちゃいけない。
 途中からでもいい。
 浅野くんが来てくれるのを信じて、今のあたしにできるベストな演奏をするんだ。

 自分に言い聞かせながら、ネックを握る左手にぎゅっと力を込める。

 テツ先輩が小気味好くスティックを四回叩くのを合図に、最後の曲が始まった。