「へっ?」

「ライブもデートと同じで、人間がやってることだから、思ったようにいかないことだらけ。どんなに練習してもミスする時はするし、そのときのお客さんの気分とか、天気とか、機材の調子とかにも左右される。だから、思ってた通りにいかなくても、大した問題じゃないんだよ」

「練習通りできないことがあっても……いいんですか?」

「当たり前だよ! 多少リズムがずれたって、違う音出しちゃったって、そのミスごとお客さんを巻き込んで楽しんじゃえばいい」

 ミスについて、そんなふうに考えたことがなかった。
 特に、最初のオーディションの翌日、ベースに真剣に向き合いはじめた日からは、正確に弾けるようにものすごく神経を使っていた。
 演奏中に一音間違えるたび、静電気のようなビリリとした痛みを指先に感じていた。
 だけど、そんなに気にする必要なんてなかったのかな。
 失敗しても、いいのかな。
 
「一番大事なのは、演奏中に不機嫌にならないことだよ」

 モニ先輩や浅野くんとはまた違ったタイプの、バンドへの情熱。
 軽音部の人たちは、こうやって一人ひとり違う視点からあたしにアドバイスをくれる。
 たくさんの考え方を知って、少しずつ違う自分に出会うことができた。
 それだって、元はと言えば、
「セラ先輩」
「なに?」
「あのときセラ先輩に誘拐されて、ほんとによかったです」
「人聞き悪いよ」

 くしゃっと笑ってそう言ったセラ先輩が、あたしの頭にポンと手のひらを乗せる。

「まあ、もちろんあんまりグダグダなのは良くないけどさ。でも、モニの厳しい指導に耐えてきたみかるちゃんなら、完璧に演奏すれば百二十点は取れるはず。多少ミスったって、それはもう百点のライブだよ」

「はい、ありがとうございます」 
 すーっと、全身が軽くなっていくのを感じた。
 完璧じゃなくていい。少しのミスは気にしなくていい。
 お客さんと一緒に、ライブを楽しむんだ。

「よーし!」
 左右の頰をペシペシっと手で叩いて、気合を入れる。

「さあ、お待たせしました! 今日を締めくくる、軽音部によるバンド演奏です!」

 幕が開き、体育館が拍手に包まれた。