ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

「みなさん、文化祭お疲れ様でした! いやー、今日一日どうでしたか、小林くん?」
「そうですねえ……」
 実行委員の三年生二人の漫才風の司会進行に、体育館がわーっと盛り上がる。 
 この話が終われば、とうとうあたしたちの出番だ。

 初めての大きな舞台。
 クラスの友達も、顔を合わせたことのない先輩たちも、みんなあたしたちの演奏を聴いてくれるんだ。
 うれしい。すごくうれしい。
 だけど、正直不安のほうが強い。
 失敗したらどうしよう、こんな大勢の前でみじめな思いをしたらどうしようって。

 それに。
 いつもの浅野くんの立ち位置でギターを構えている、パキッと整ったミディアムヘアの三年生。
 オーディションに合格できたとはいえ、あのときのトラウマもあって、やっぱりまだ弓野会長のことは怖い。
 さっきの音出しの時だって、一音一音を採点されているように感じて、気が気でなかった。

 不安に負けてちゃダメ。
 落ち着かなきゃ。
 必死に自分に言い聞かせても、体の震えはどんどん大きくなっていく。

「どうしよう……」
 思わずかすれ声を漏らした途端、ぽん、と背中を叩かれた。

 振り返ると、いつも通り自信たっぷりな様子のセラ先輩が、あたしを見てニッと笑っていた。
「緊張してる?」
 うまく声を出せなくて、うんうんとうなずく。
「じゃ、気分転換に恋バナしよっか」
 いきなりなんなのよ……。

「みかるちゃんはさ、『顔はすごく整ってるけど、デート中に少しでも予定通りいかないことがあると不機嫌になる人』と、『顔はそこそこだけど、いつもニコニコしていてその時々を一緒に楽しめる人』、付き合うならどっちがいい?」
「もう、今はそんな話してる場合じゃないですよ!」
 ピリピリするあまり、思わずきつい口調になってしまった。

 セラ先輩って、どうしていつもこんなに自然体でいられるんだろう。
 オーディションの時もそう。大事な演奏前でも常に自信満々なんだよね。

「いいから、答えて」
「えっと……」
 一ミリも笑顔を崩さないまま促されて、しぶしぶ考える。
 イケメンは好きだけど、不機嫌になられるとこっちまで気分が落ちちゃいそうだな。
 となると、
「二番目の、いつもニコニコしている人がいいです」

「うんうん」
 あたしの回答を聞いたセラ先輩が、うれしそうに歯を見せた。
「オレがライブで意識していることがね、実はそれなんだ」