「舞ちゃん! ど、どうしてここに……?」
実行委員会でも演者でもない舞ちゃんは、舞台裏に用なんてないはず。
「みかるの様子を見にきたの」
「えっと……」
「はじめまして。一年一組の光橋舞と申します」
しどろもどろになっているあたしから目を離して、舞ちゃんが軽音部の先輩たちに向かってスラスラと自己紹介した。
「知人の車で浅野くんを迎えに行ってもらえるかもしれません。電車が止まっているのはどのあたりか、教えていただけませんでしょうか?」
モニ先輩がスマホを見ながら駅の名前を告げると、舞ちゃんが力強くうなずく。
「それはちょうどよかったです。少々お待ちください」
そう言って舞ちゃんはスマホを取り出し、誰かに電話をかけた。
一分ほどして通話を切った舞ちゃんが、先輩たちのほうを見ながら言う。
「車を出してもらえることになりました。浅野くんにも私から連絡して、待ち合わせを手配しておきます」
「す、すごい、ありがとう」
突然現れた初対面の後輩の手際の良さに、ぽかんと口を開けるモニ先輩。
続いて舞ちゃんはあたしに視線を向け、口元を緩めた。
「タクマくんの大学生のお兄さんの下宿先がね、ちょうど浅野くんの電車が止まってるあたりなの。車を頼んだら、快く引き受けてくれたよ」
「ありがとう」
うまく目を合わせられなくて、うつむき加減でお礼を言う。
すると、胸の中で蓋をしていたドロドロの感情が、ゆっくりと動き出した。
「あの、舞ちゃん……」
こんなタイミングで顔を合わせるなんて予想外すぎて、心の準備が全然できていないけど。
少しでも早く、言わなきゃ。
「先週はごめんね。あたし、舞ちゃんが一緒にいてくれないのが寂しくて、ついかっとなっちゃった」
「ううん」
舞ちゃんは少しばつが悪そうな顔をして首を振る。
「むしろ、私のほうこそ、ごめん。言葉足らずだったなって思ってて。ずっとみかると話したかったんだけど、なかなか自分から踏み出せずにいた」
そう言って舞ちゃんは、急に両手であたしの肩を掴んだ。
「だから今、あのとき言えなかったことを言わせてほしい」
真面目な優等生の、いつにもまして真剣な瞳が、まっすぐあたしを見つめている。
「あのね、私、みかるのことが大好きなの」
「へっ?」
「いつもクリクリ笑って私のあとをついてきてくれるみかるのことが愛おしくて、みかるが少しでも辛い思いをしなくて済むように、みかるのためになると思ったことはなんでも先回りしてやってしまってた。だけど、気づいたの。このままじゃ私、みかるのいい友達でいられないって」
舞ちゃんのやさしい体温が、肩を伝って全身に行き渡る。
「私はこれからもみかるの親友でいたい。でも、みかるを私なしでは生きられない人にするわけにはいかない。だから、少し距離をとらなきゃって思った。あのときはちょっと言い方が冷たくなっちゃって、ごめん」
実行委員会でも演者でもない舞ちゃんは、舞台裏に用なんてないはず。
「みかるの様子を見にきたの」
「えっと……」
「はじめまして。一年一組の光橋舞と申します」
しどろもどろになっているあたしから目を離して、舞ちゃんが軽音部の先輩たちに向かってスラスラと自己紹介した。
「知人の車で浅野くんを迎えに行ってもらえるかもしれません。電車が止まっているのはどのあたりか、教えていただけませんでしょうか?」
モニ先輩がスマホを見ながら駅の名前を告げると、舞ちゃんが力強くうなずく。
「それはちょうどよかったです。少々お待ちください」
そう言って舞ちゃんはスマホを取り出し、誰かに電話をかけた。
一分ほどして通話を切った舞ちゃんが、先輩たちのほうを見ながら言う。
「車を出してもらえることになりました。浅野くんにも私から連絡して、待ち合わせを手配しておきます」
「す、すごい、ありがとう」
突然現れた初対面の後輩の手際の良さに、ぽかんと口を開けるモニ先輩。
続いて舞ちゃんはあたしに視線を向け、口元を緩めた。
「タクマくんの大学生のお兄さんの下宿先がね、ちょうど浅野くんの電車が止まってるあたりなの。車を頼んだら、快く引き受けてくれたよ」
「ありがとう」
うまく目を合わせられなくて、うつむき加減でお礼を言う。
すると、胸の中で蓋をしていたドロドロの感情が、ゆっくりと動き出した。
「あの、舞ちゃん……」
こんなタイミングで顔を合わせるなんて予想外すぎて、心の準備が全然できていないけど。
少しでも早く、言わなきゃ。
「先週はごめんね。あたし、舞ちゃんが一緒にいてくれないのが寂しくて、ついかっとなっちゃった」
「ううん」
舞ちゃんは少しばつが悪そうな顔をして首を振る。
「むしろ、私のほうこそ、ごめん。言葉足らずだったなって思ってて。ずっとみかると話したかったんだけど、なかなか自分から踏み出せずにいた」
そう言って舞ちゃんは、急に両手であたしの肩を掴んだ。
「だから今、あのとき言えなかったことを言わせてほしい」
真面目な優等生の、いつにもまして真剣な瞳が、まっすぐあたしを見つめている。
「あのね、私、みかるのことが大好きなの」
「へっ?」
「いつもクリクリ笑って私のあとをついてきてくれるみかるのことが愛おしくて、みかるが少しでも辛い思いをしなくて済むように、みかるのためになると思ったことはなんでも先回りしてやってしまってた。だけど、気づいたの。このままじゃ私、みかるのいい友達でいられないって」
舞ちゃんのやさしい体温が、肩を伝って全身に行き渡る。
「私はこれからもみかるの親友でいたい。でも、みかるを私なしでは生きられない人にするわけにはいかない。だから、少し距離をとらなきゃって思った。あのときはちょっと言い方が冷たくなっちゃって、ごめん」
