※ ※ ※
「それでは本日の試験は終了です。お疲れさまでした」
試験監督のアナウンスを聞いたおれは、配られた模範解答を適当にカバンに突っ込んで席を立った。
たぶん全教科七十点ほどは取れているはず。
他のやつらがどれくらい取ってくるか知らないけど、少なくとも母さんを失望させないほどの順位には入れた気がする。
——これでいいんだと、思ってた。
成績上位をキープして、いい高校や大学に進学して、専門性を身につけて安定した仕事に就く。
そうすれば、母さんを安心させることができる。
四歳くらいの頃だったか、テレビで流れてきたロックバンドの演奏に興奮したおれは、ソファーの上に登ってエアギターを始めた。
そんなおれを母さんは「はしたない」と叱りつけ、そのままチャンネルを変えた。そのあとの晩御飯の間ずっと、全く口を聞いてくれなかった。
そんなことが、何度かあった。
母さんの残念そうな顔を見たくなかったおれは、なるべくそういう「はしたない」姿を見せないように心がけた。
どれが「はしたない」ことなのかは判断がつかなかったから、とりあえずなにが起きてもなるべく表情を見せないようにするという方針をとった。
唯一はっきりしていたのは、ロックとかの音楽の話題になると母さんは不機嫌になるということだった。だから、家ではなるべく音楽の話はしないようにした。
いとこの家でおじさんにギターを習っていたことも、誕生日プレゼントに楽器を買ってもらったことも、しばらくの間母さんには秘密だった。
テストの点数を条件に軽音部に入ることだって、おじさんが掛け合ってくれなければたぶん無理だった。
学年が上がるにつれてだんだんわかってきたのは、テストで良い点数を取れば、母さんがほっとした顔を見せるということだった。
だから、授業や宿題にはしっかり取り組むようにしてきた。
このまま勉強に集中すれば、これからも母さんを安心させることができるし、おれの将来も安泰になるんだろう。
そんなわけで、軽音部を辞めさせられたことは、いいきっかけになったと思っていた。
「それなのに」
エレベーターを降りて大通りまで歩き、横断歩道の向こう側を眺める。
それなのに今朝、車から降りた途端、彼女の叫び声が聞こえた。
「それでは本日の試験は終了です。お疲れさまでした」
試験監督のアナウンスを聞いたおれは、配られた模範解答を適当にカバンに突っ込んで席を立った。
たぶん全教科七十点ほどは取れているはず。
他のやつらがどれくらい取ってくるか知らないけど、少なくとも母さんを失望させないほどの順位には入れた気がする。
——これでいいんだと、思ってた。
成績上位をキープして、いい高校や大学に進学して、専門性を身につけて安定した仕事に就く。
そうすれば、母さんを安心させることができる。
四歳くらいの頃だったか、テレビで流れてきたロックバンドの演奏に興奮したおれは、ソファーの上に登ってエアギターを始めた。
そんなおれを母さんは「はしたない」と叱りつけ、そのままチャンネルを変えた。そのあとの晩御飯の間ずっと、全く口を聞いてくれなかった。
そんなことが、何度かあった。
母さんの残念そうな顔を見たくなかったおれは、なるべくそういう「はしたない」姿を見せないように心がけた。
どれが「はしたない」ことなのかは判断がつかなかったから、とりあえずなにが起きてもなるべく表情を見せないようにするという方針をとった。
唯一はっきりしていたのは、ロックとかの音楽の話題になると母さんは不機嫌になるということだった。だから、家ではなるべく音楽の話はしないようにした。
いとこの家でおじさんにギターを習っていたことも、誕生日プレゼントに楽器を買ってもらったことも、しばらくの間母さんには秘密だった。
テストの点数を条件に軽音部に入ることだって、おじさんが掛け合ってくれなければたぶん無理だった。
学年が上がるにつれてだんだんわかってきたのは、テストで良い点数を取れば、母さんがほっとした顔を見せるということだった。
だから、授業や宿題にはしっかり取り組むようにしてきた。
このまま勉強に集中すれば、これからも母さんを安心させることができるし、おれの将来も安泰になるんだろう。
そんなわけで、軽音部を辞めさせられたことは、いいきっかけになったと思っていた。
「それなのに」
エレベーターを降りて大通りまで歩き、横断歩道の向こう側を眺める。
それなのに今朝、車から降りた途端、彼女の叫び声が聞こえた。
