この場所で始まる恋

 合格してからは気が楽で最後の学園生活を楽しんでいた。そんな日々もそう長く続くはずなんかなくて卒業という文字がどんどんと近づいてきてついに卒業の日。式が終わり別れを惜しむ泣き声が至るところから聞こえてくる。私と明日夏もクラスの子たちと感動に浸っているとワーという湧き声が聞こえてそちらに目線を向けると生徒たちに囲まれる香坂先生が目に入る。楽しそうに生徒たちと話す先生を見ているとバチっと目が合い、そのまま断りを入れて人だかりを抜けてこちらに向かってくる。何だろうとみていると

「卒業おめでとうございます。」

「ありがとうございます。/ありがとうございます!」

 そういうとあっという間ですねなんて会話を軽くしていると「先生一緒に写真撮ろー!」という声に会話を終わりにして向かう前

「あ。」

胸元の花に触れて何かついてました。と言って去っていく。触れられた胸元の花に目線を向けると胸ポケットに何か入っているのが見えて取り出すと小さく折りたたまれた紙があり取り出して広げるとそこには

『いつもの場所でお待ちしています。』

 と書かれた文字があり、先生の方を見るとこちらに気づき微笑む。卒業式もひと段落したころ書かれていた、”いつもの場所”に向かう。

(いつもの場所って図書室しかないよね?)

 恐る恐る扉を開くとまだ誰もいない様子。間違ってないはずだけどと不安になりながらも席に座りここで先生と勉強したなとなつかしさに浸っているとガラガラ!と扉が勢いよく開き方がビクッと跳ねると急いできたのか少し息が上がっている先生がいて近づく。

「すみません、呼び出しておいて遅れてしまって。いろいろな人に声を掛けてもらっていたら遅くなりました。」

「大丈夫です。私もさっき来たばかりなので。」

 息を切らしながら言うのに対してそう言うととりあえず向かい合わせに席に着く。久しぶりに二人でいる、しかも今は本当に誰もいなくて二人だけの空間。ドキドキと緊張で何を言おうか考えていると沈黙した空気を破ったのは先生だった。

「懐かしいですね、こうやって向かい合うの。」

「ですね。夏休み中は本当にお世話になりました。」

「いえいえ、僕は何も。それに楽しかったです。西原さんと一緒にやるの。なんなら楽しみにもなっていました。」

「私も!」

 おかしいですよねと自虐的に笑う先生に乗り出すように言ってしまい、もう一度座り直して冷静に。

「私も。先生に勉強教えてもらうの、楽しみにしてました。」

「それはありがたいですね。」

 そこから懐かしい話に花を咲かせて久しぶりにお互い笑いながら話をする。その時ふと先ほどの紙を思い出して聞いてみる。

「そういえば、なぜ紙で言ったんですか?直接言えばいいじゃないですか。」

「それは、他の人に邪魔されたくないので。」

 先生からしたらなんてこない言葉なはずなのにその言葉に勘違いしてしまいそうになる自分がいる。もしかしたら私は特別なのではないか、と。ごまかさないとまた恋心を思い出してしまいそうになるから。

「なんですかそれ(笑)他の人だったら勘違いしちゃいますよ?」

 「してもいいですよ?」

 茶化すように言う私に、ぼそっとつぶやかれた言葉に驚きで視線を向けると真剣にこちらを見詰める先生にドキッとする。そしてなくしたはずの、忘れたはずの気持ちがまたぶり返しているのを感じる。

 もういっそのこと言ってすっきりしてしまおうか?最後なんだし行っても言わなくてももう終わり、ならば言わないよりかは言って本当に吹っ切ろうそう覚悟を決めて姿勢を正す。

「先生あの、、」

「はい?」

 急に真面目な雰囲気になった私を見て姿勢を同じく正すうるさい心臓の音に先生に意を決して伝える。

「ずっと言えずにいたことがあって、」

「はい。」

「私、先生のことが好きです―。」

 ついに言ってしまった。ドキドキとうるさかった心臓がさらに音を増す。どんな答えでもいい、なんなら答えなんかいらない。ただ伝えたかっただけのただの自己満足。沈黙する空気が痛くてその場から立ち去ろうと机に手を着こうとしたとき

「うれしいです。そう言ってもらえて。」

 (あ、振られるやつだ。)

 分かっていたはずなのに振られるのって辛い、、二度目の失恋にこのままいたら泣いて先生を困らせてしまうから。ここではなかないで立ち去ろう。そう決めてごまかすように笑い

「すみません、急にこんなこと、、忘れてください!それじゃあ、」

 言い捨てるかの言うとその場から逃げようとする私の手首をパッと掴まれその勢いで振り返るとまっすぐな視線にぶつかり目が離せなくなる。

「忘れないですよ。僕も西原さんが好きなので。」

 あぁこれは先生の優しさで私が傷つかないように言ってくれてるだけ、好きという言葉も”生徒として”好きというだけに決まっている。分かっているけど今はその優しさがどうしても辛く痛い。

「言っておきますけどこの”好き”は西原さんの思ってくれている”好き”と同じ、だと勝手に思てます。」

 少しでも気を抜くと涙が溢れてしまいそうになるからなんとか最後の気力を振り絞って口を開こうとする私を遮るように発せられた言葉に驚きで目を見開き視線を上げると照れて口元を手で隠している先生がいた。これは、勘違いしてもいいのだろうか?それとも優しさ?どっちなのか分からないでただ見てることしかできない私に先生は視線を合わせて

「好きです。西原さんが。生徒としてでなく一人の女性として。」

 まっすぐに伝えられた言葉に涙がぽろぽろと頬を伝う。急に出てきた涙に戸惑いぬぐおうとする私の手を静止して先生が優しく涙を拭う。

「勘違、い、しちゃい、ますよ、?」

「はい、勘違いしていいですよ。」

「先生が、わた、しのこと好き、だって思っ、て浮かれ、ちゃいますよ、?」

「はい、浮かれてください。」

「せん、せい好き、です。」

「僕も大好きです。」

 涙でとぎれとぎれになる言葉に優しく答えてくれる先生に夢なのではないかと思ってしまう。いっそのこと夢でもいい。先生が私を好きと言ってくれたことがどうしようもなく嬉しい。止めたいはずの涙がどんどん溢れてしまっている私の目の前に来て腕を広げてくる。それに対して迷いなく飛び込むと包み込む暖かいぬくもりと落ち着かせるように背中をポンポンとしてくれる。そして涙が落ち着いてきたのを確認すると少し離れる。かと思いきや顔がどんどん近づいてきて

(あ、キスされる―)

 そう悟ってぎゅっと目を瞑るとコツっとおでこに何か当たるのを感じ目を開けると少しでも動けば唇がくっついてしまいそうな距離に先生の顔がありドキドキする私に対して

「キスは、また大学生になってからというころで。」

と微笑みながら言われる。叶うと思わなかった恋が叶い、香坂先生と結ばれる。