「何?」
 男は前を見たままぶっきらぼうに言った。
 何? って何……あ、メニューの事? 
 男の視線の先には、メニュー表があった。

「えーと、とんこつで」
「おっちゃん、とんこつ二つと餃子!」
「あいよ!」
 注文したあとで水を飲もうと男がマスクをはずした。

 横顔は結構な男前だった。すっとした鼻筋に、きめの細かい肌。綺麗な、顔。
 同じ歳くらいかと思ったけど、肌艶いいところをみれば、もしかして年下なのかもしれない。

「……なんだよ?」
 私がまじまじと見ていることに気づいたのか、男がこっちをむいた。
「あ、ごめん」
「さっきの」
 ぼそりと呟かれて、視線だけその男性に向ける。

「さっきの?」
「パスケースに入ってたの、ラグバの会員証だろ? 好きなの?」
 いきなり言われて、私は思わず飲んでいた水を吹きそうになった。