「今は凛もいないんだから、無理しなくてもいいのよ?」

「そうだぞ、萌ちゃん。……つらい時は素直に泣いたらいい」

 ひとりで日中たくさん泣いたはずなのに、ふたりの優しい言葉に目頭が熱くなる。

「ありがとうございます。でも本当に私なら大丈夫です! だってこんなにも私と凛のことを大切にしてくれる明子さんと文博さんがいるんですから」

 そうだよ、ふたりのためにも過去は吹っ切るべきだ。このタイミングで再会したのも、いい加減に遼生さんのことは忘れて、凛との幸せな未来を生きなさいって意味なのかもしれない。

 すると急に手で目を覆い、文博さんが泣き出した。

「萌ちゃん、泣かせることは言わないでくれよ。歳なのか、涙もろくて仕方がない」

文博さん……。

「嫌ね、あなたったら。凛が見たら笑われるわよ」

「涙が勝手に出てくるんだからしょうがないだろ」

 そんなやり取りをするふたりを見たら、自然と頬が緩んでしまった。

 今までは遼生さんが心に棲み付いることは、仕方がない思い、ズルズルと想いを残していたところがある。

 通じない想いを抱えて生きていく私をきっとふたりは望んでいないはず。だからこれからはちゃんと遼生さんを忘れるための努力をしよう。

 言い合いをするふたりを見ながら強く誓ったものの……。

「こんにちは、萌ちゃん」

「……いらっしゃいませ、碓氷さん」

 開店してから客足が少なくなる十一時過ぎにやって来たのは、遼生さんだった。

「今日はなににしようかな」

 そう言って彼はショーケースに並ぶケーキを眺める。