「そのほうがいいわ。なにがきっかけで記憶を取り戻すとも限らないし、間違っても凛と会わせないようにね。凛、碓氷さんに似ているんでしょ? 凛を見て思い出す可能性も捨てきれないんだから」

「わかってる」

 ふたりの話を聞きながら、四年ぶりに再会した遼生さんのことばかり思い出してしまう。

 遼生さんは私と別れてから、どんな風に生きてきたのだろうか。私と駆け落ちするために進めていた引継ぎの話も嘘だったのかな。
 だから今、あんなに生き生きとした表情で仕事をしているだろうか。

 いや、そんなこと私にはもう関係のないことだ。一ヵ月しか滞在しないのなら、うまくいけば顔を合わせることはないはず。

 文博さんも打ち合わせは店ではやらないって言ってくれたし、外を歩いていて顔を合わせることもないだろう。

「大丈夫? 萌ちゃん」

 なにも言わずにいたら、ふたりは心配そうに私を見つめていた。

「あ、ごめんなさい。……大丈夫です」

 これ以上ふたりに心配かけないように笑顔を取り繕った。

「悪かったな、俺が碓氷さんを店に呼んじまったばっかりに」

 申し訳なさそうに言う文博さんに慌てて「文博さんはなにも悪くありません」と伝えた。

「ただ、偶然が重なっただけです。だから気にしないでください。それに気をつければもう二度と会うことはありませんし」

「萌ちゃん……」

 気丈に振る舞っているのがバレバレだったようで、ふたりは私を見て眉尻を下げた。