「萌ちゃん、もしかして碓氷さんは……」

 文博さんがそこまで言いかけた瞬間、私は遮るように声を上げた。

「すみません、あまりに碓氷さんが私の知り合いに似ていたので、びっくりしちゃっただけなんです。……碓氷さんとは、今日、初めてお会いしました」

 きっと文博さんは察したのだろう。それによく見れば、やっぱり凛は遼生さんに似ている。艶のある真っ黒な髪も、アーモンドの形をした薄焦げ茶色の瞳もそっくりだ。

「そう、ですか。……すみません、変なことをお聞きしてしまい」

 残念そうに肩を落とした遼生さんに、「こちらこそすみませんでした」と謝罪し、床に落ちたままの商品札を拾った。

「そろそろ明子さんの休憩が終わる時間ですし、お客さんも来そうにないので先にご飯食べてきますね」

「あ、あぁ。そうだな。そうしてくれ。俺は碓氷さんと話してから食べるよ」

「はい、わかりました」

 商品札を片づけて、困惑する遼生さんに精いっぱいの笑顔を向けた。

「驚かせてしまって本当にすみませんでした。改めて商店街のことをよろしくお願いします」

「……はい、こちらこそよろしくお願いします」

 彼に向けられた優しい笑みは昔と変わっていなくて、せっかく取り繕った笑顔が台無しになりそう。

「失礼します」と早口で捲し立てて二階へと急いだ。

 明子さんがいるキッチンには行かず、寝室に駆け込みドアを閉めると、私は力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 そして次の瞬間、ポロポロと涙が溢れて止まらなくなる。

「ふっ……うぅっ」

 まさかこんな形で遼生さんにまた笑いかけてもらえたなんて……。

 彼の優しい笑顔が大好きだった。声も仕草もすべてが大好きで、たまらなくて。もう二度と会えないと思っていたのに。

「こんな再会なんて、望んでいなかったのに」

 神様がいるとしたら聞きたい。どうしてこんなにも残酷なかたちで私と彼を再び引き合わせたのですか?と――。