設定しておいたアラームが鳴る時間より先に目が覚め、枕元にあったスマホを手に取って設定を解除した。

 時刻は朝の五時半過ぎ。隣では今年で三歳になる愛娘の凛がスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている。

 可愛い天使の笑顔に癒されながら、起こさないように布団から出た。

 明子さんと文博さんはすでに店の厨房でケーキ作りを始めている。私はこの時間に起きて、みんなの朝食と凛のお弁当の準備をする。

 冷蔵庫を開けて、食材はなにが入っているかを確認してから調理に取りかかった。

 四年前、明子さんに指摘されて妊娠が発覚した時は頭の中が真っ白になった。これから新しい人生を歩んでいこうと思い始められたばかりで、間違いなく遼生さんと私の間にできた子供だったから。

 正直、生むべきか悩んでしまった。だって遼生さんとの関係は終わっていて、この子には生まれてきても父親がいない寂しい思いをさせてしまう。

 それに私ひとりで育てていけるか自信もなかった。不幸な人生を歩ませることになるなら、いっそ生まない選択をすることも大切なのではないかと。

 そんな私に生むべきだと背中を押したのは、明子さんと文博さんだった。『どんなかたちでも授かった命に罪はない。それに世の中には私たち夫婦のように愛しい命を授かれない夫婦もたくさんいる』と言われてしまった。

 さらに文博さんにも『俺たちにとって萌ちゃんはもう娘なんだ。そんな萌ちゃんの子供なら俺たちの孫でもある。だったら家族総出で大切に育てていこう』と言ってくれて、私は生む決心をすることができた。