「萌ちゃんは今日も可愛いわねぇ。本当に恋人はいないの?」

 ほぼ毎日誰かに聞かれるこの言葉のたびに、私の胸はざわついてしまう。

「いないですよー。今は仕事が楽しくて」

 その度に笑って否定することにも慣れてきた。

 実は北海道に来てから三日後に、携帯の番号を変えてから一度だけ遼生さんに電話をかけたことがある。

 その時に電話に出たのは、若い女性の声だった。

 相手が誰なのか、遼生さんとはどんな関係なのか、彼は今、どんな気持ちでなにをしているのか。聞きたいことはたくさんあったのに、なにも言えずに通話を切ってしまった。

 若い女性が遼生さんの電話に出たということがすべてなのだろう。やっぱり遼生さんの気持ちは離れていて、すでに新しい恋人がいたから私と別れたかったんだと思う。

 でもそのおかげで気持ちに区切りをつけることができた。もちろん今も彼を好きな気持ちは消えていないけれど、これから少しずつ忘れていく努力はしていかないといけない。

 きっと新しい生活が忘れさせてくれるはず。三ヵ月しか経っていないのに、こうして笑って過ごせているのがその証拠。

 この商店街で明子さん、文博さんと暮らす日々に幸せも感じているから。