女の子が道路を渡ろうとした時、信号無視をしたトラックが交差点に進入してきた。咄嗟に俺は手にしていたなにかを放り投げ、飛び込んで……それで……。

 バンッとドアが閉まる大きな音が響き、萌と過ごした幸せな日々の記憶が蘇った。

「萌……」

 なぜ俺は忘れていたんだ? あんなにも大切で愛おしい存在だけを記憶から失っていたのだろう。

 萌と出会ってから、俺の人生は一八〇度変わった。何気ない日常が幸せに溢れ、どんなにつらいことや苦しいことがあっても、萌という存在のおかげで乗り越えることができていた。

 彼女がいるだけで強くなれる気がして、どんなことにも果敢に挑戦することもできた。

 ちょっとした仕草が可愛くて、ただ話をしているだけで心が満たされる。きっと彼女が俺の運命の人――。

「萌っ!」

 勢いよく起き上がって萌を追いかけようとしたものの、激しい頭痛に襲われる。