その後も母と珠緒は一方的に誰かに対し、責め立てていった。

「それなのに、このタイミングで再び現れるなんて……。あなた、遼生さんが近々副社長に就任するという噂を聞きつけて彼に記憶がないことをいいことに近づいたの?」

「えっ? そんな、違います!」

 やっと聞こえてきた相手の声に、耳を疑った。この声は間違いなく萌ちゃんだ。だけどなぜ彼女がここに? 

 いや、待て。萌ちゃん……萌。初めて彼女から名前を聞いた時、ひどく懐かしく、愛おしい感覚を覚えた。

「わかったら早く出ていってちょうだい。二度と遼生の前に現れないで!」

 大きな声で放たれた母の言葉に、まるでフラッシュバックするようにたくさんの記憶が頭に流れ込んできた。

 そうだ、前にも母は同じ言葉を言っていた。俺の大切な人に憎しみを込めた目で何度も何度も。

 だから俺は両親との縁を切るつもりでどこかに向かっていて……。

 次に凛ちゃんの笑顔が頭をよぎる。