その時、騒ぎを聞きつけた看護師が様子を見に来た。

「患者さんの前でいったいなんの騒ぎですか? 他の患者様にも迷惑ですよ」

「すみません、すぐに余所者は帰しますから」

 そう言うと彼の母は、立ち尽くす私の腕を強く掴んだ。

「早く出ていきなさい」

「あっ……!」

 勢いそのままに廊下に押し出され、大きな音を立ててドアを閉められてしまった。

 再び病室に入ったところで、冷静に話をしてくれないはず。看護師にも家族ではない私は帰されてしまうだろう。遼生さんが目を覚ますまではいたかったけれど、帰るべきだよね。

 後ろ髪を引かれる思いで踵を返し、薄暗い廊下を進んでいく。

 そして病院を出たところで足を止め、彼が入院している病室を見上げた。

「遼生さんは、私と駆け落ちするつもりだったんだ」

 ずっと私と別れるために準備を進めていたものだと思っていた。それが事故に遭い、記憶を失ってしまったために、約束の場所に来なかったんだね。

 それなのに私は一方的に送られてきたメッセージを信じて、事実を確かめようとしなかった。なんだ、全部私が悪いじゃない。……こんな私では、彼のそばにいる資格はないよ。

 四年前の真相を知り、後悔で胸が圧し潰されそう。

 帰り道、私はずっと涙が止まらなかった。