「心配だから萌ちゃんが家に入ったら帰るよ」

「心配って、家の目の前ですよ?」

「そうだけど、なにがあるかわからないだろ? だから最後までちゃんと見送らせて」

 とことん優しい彼にまた好きって気持ちが大きくなる。

「わかりました。それではおやすみなさい」

 このまま一緒にいたら、胸が高鳴っていることに気づかれそうで慌てて頭を下げた。

「あぁ、おやすみ」

 そのまま踵を返し、路地に入った先にある玄関のドアノブに手をかける。最後に彼を見ると、笑顔で手を振っていた。

 気恥ずかしく思いながらも小さく手を振り返せば、遼生さんは嬉しそうに頬を緩める。その瞬間、胸が高鳴る。

 再び小さく頭を下げて家の中に入ってからも、胸は激しく脈を打ち続けている。

 どうしよう……私、昔よりもっと遼生さんのことを好きになっている。彼の記憶が戻ったら報われない想いだ。凛だって悲しませることになるのに。

 溢れる感情を止める術がなく、しばらくの間、私は凛を抱いたまま玄関で立ち尽くしていた。