さくらがじっと見つめて声をかける。

「北斗さんは?大丈夫?」

ピタッと北斗の手が止まる。

「…さくら、俺のこと?」

さくらは手を伸ばして北斗の頬に触れた。

「北斗さんの怪我は?大丈夫なの?」

北斗は、信じられないというように目を見開いて、頬に触れるさくらの手を握る。

「さくら、俺のことが分かるのか?」
「ええ。北斗さん、私をかばってくれてありがとう。あんなに大きな怪我だったのに、もう平気なの?」
「ああ、大丈夫だ。全部さくらのおかげだよ。さくら、俺のこと、分かるんだな?覚えてるんだな?」

北斗は、目を潤ませながらさくらの頬に触れる。

「信じられない…さくらが、俺を忘れていないなんて。嬉しくて、俺…」

次第に声が震えていく。

「俺のことなんか忘れていてもいい。覚えてなくていいから、目を覚ましてくれって、ずっと祈ってたんだ。そしたら目を開けてくれて、しかも俺の名前も呼んでくれて…本当に信じられない」

さくらは、ふふっと笑う。

「私も。たとえ記憶を失くしても、北斗さんを助けたいって、救急車に乗ったの。でも、忘れなかった。なんでだろう?あ、ここって、もの凄く近所の病院なの?」
「違うよ。ほら、5年前と同じ、隣の県の病院だ」
「ええー?じゃあなんで記憶が失くなってないの?あ、私の愛の力かな?」

えへへと、さくらは照れたように笑う。

北斗もつられて笑ったが、ん?と何かに気づいたように、さくらの耳元を覗き込んだ。

「さくら、愛の力ってことにしておきたいけど、どうやらそうじゃないらしい」

え?と首を傾げるさくらの髪に触れると、北斗は何かをそっと摘んでさくらの手のひらに載せる。

「これって…あの木の?」

さくらは、手のひらに載せられた花びらを見つめる。

「ああ、そうみたいだな」

北斗も、小さな桜の花びらをじっと見た。

「こんなに小さいのに、俺とさくらを繋いでくれてるんだな」
「うん、嬉しい…」

さくらは、そっと人差し指で触れると、そうだ!と北斗に笑顔を向けた。