夜、なかなか寝つけなくて何度も寝返りを打っていたさくらは、やがて起き上がりそっと部屋を出る。

リビングの明かりが漏れているのに気づき、階段を下りた。

「北斗さん…」

そっとドアを開けると、テーブルでパソコンに向かっていた北斗が顔を上げる。

「ん?どうしたの、さくら」
「なんだか眠れなくて…。時差ボケかなあ」

隣の椅子に座りながらそう言うと、北斗は、ぷっと笑う。

「さくら、ここは海外じゃないぞ?」
「あ、そっか。じゃあ、時空ボケ?」
「おいおい、お前、時空を超えてきたのか?」
「じゃあ、何ボケなの?」
「んー、単なる、ボケ?」
「ひっどーい!何それ?」

さくらは頬を膨らませて北斗を睨む。

「あはは!懐かしいな、さくらのその怒った顔。全然変わってないな」
「ちょっと、怒った顔見て笑うって、ひどくない?」
「ごめん、だって、懐かしくてさ」

目元に浮かんだ涙を拭いながら、北斗はなんとか笑いを収める。

「あれから5年か…。また会えるなんて、思ってもみなかった。ずっとさくらのことを心配してたんだ」
「…北斗さん」

さくらは、思いがけない北斗の真剣な眼差しに、胸がドキドキする。

「記憶はちゃんと戻ったのか、身体は回復したのか、ここでのことを思い出して、悪夢にうなされてないだろうかって…」
「悪夢だなんて、そんな。ここでの思い出は、楽しいことばかりです。って言っても、思い出したばかりだから、5年も経ってるなんて実感湧かないけど」
「俺はこの5年間、さくらのことを想わない日はなかったよ。今こうしてまた会えて、もの凄く嬉しい。喜んではだめだと思うけど、抑え切れない。会えて、良かった」

さくらは、北斗の真っ直ぐな視線から目を逸らせない。

記憶の中の北斗よりも、大人っぽく、男らしくなった気がする。