名前を呼ばれて、パッと明るくなる。


「蒼永!お疲れさま」
「何読んでたの?」
「百人一首の本!さっきかるた部の視察行った時、緋色くんが貸してくれたんだ」
「へぇ…」
「――貸してくれただけだよ!?何もないからねっ!?」


流石の私もすぐにハッとした。
この前みたくめっちゃヤキモチ妬いちゃうかもしれないけど、全然そんなことはないから!


「…うん、わかってる」


ほっ…、よかった。


「帰ろ」
「うん!」


本はバッグにしまい、自然と手を繋いで帰る。
さっき視察で覗いた時の蒼永、めっちゃカッコよかったなぁと頬が勝手に緩んでしまう。

…想像以上に1年の女子マネがいて、ちょっとだけ凹んだけど。


「マネージャーだけど、部長が何人かだけ選別するって言ってた」
「えっそうなの?」
「いればいいってものでもないってわかったみたい。一部はまともに仕事してない奴もいるっぽくて、真剣に部活できないって嘆いてたから」
「そうなんだ」


確かにパッと見ただけでも、仕事してる子とそうでない子がいたな…。
仕事してない子たちはただ見てるだけで、何してるのかよくわからなかった。


「それと、俺は彼女以外興味ないってはっきり言っといた」
「えっ!?」
「気にしてたでしょ?」
「なんでわかったの!?」
「わかるよ」


そんなに顔に出てたのかな、と恥ずかしく思いつつ、でも嬉しくて仕方ない。
こういうところも大好きで、好きが多すぎて便箋何枚になるんだろうって、ちょっと心配になっちゃった。

そんな風に考えていた私は、まだまだのんきだったと思う。
何かがちょっとずつズレていたことに、何も気づいていなかった。