季節は初夏になりました。
 学校の校庭の桜が枝から鮮やかな葉をつけて綺麗です。
 私の教室の窓から桜並木がよく見えるんだ〜。
 ついこの間まで淡いビンク色に咲いていた満開の桜、とっても美しかったなあ。

 私の隣の席の相澤《あいざわ》くん越しに、葉桜になった桜並木を眺めてる。

「なあ?」
「なにっ?」
「お前、俺のした質問覚えてる?」
「質問? なんのことかな〜?」

 相澤くんの言ってる質問って「お前、好きなやついるのか?」って言う質問なんだ〜。この間、そう聞かれて。
 私、なんだか恥ずかしいのと答えづらくて……、答えを返せてないの。
 だって、私は……? 私の好きな人って……誰? はっきりした気持ちが分からないし。
 相澤くんのことは気になるし、一緒にいると楽しいんだ。
 だけど、これが『恋』なんだろうか。

 ――私ね、実は初恋ってものをまだしたことがないの。

 中学生の頃は友達が『胸キュンしちゃう』とか『大好きな人がいる』『好きで仕方がなくて苦しい』なんて言ってるのを羨ましく思ってた。

 誰にも言えなかったけど、恋ってどんなの?
 好きって家族や友達を好きな『好き』とどこが違うの?

「あんたさ、葉桜と俺を見てる暇があったら、あとであの質問の返事しろよな」
「わっ、私は相澤くんと葉桜じゃなくって、桜だけを見てるの!」
「はいはい、分かった、分かった。もうあれこれ誤魔化して逃げんなよ? まったくさ、早く潔く教えろっての。……はあ〜」

 はあ〜と大げさに息を吐いて、相澤くんも窓を見てる。

「ああ、鮮やかな緑の桜も良いもんだな」
「でしょ、でしょ? ……ねえ相澤くんってさ、夏休みどこか行くの? バイトは楽しい?」
「……お前、うっさいな。もう夏休みの話かよ? まだ梅雨にも入ってないのに」

 むかっ、むっかあ!
 なによ、相澤くんってばさっ!

 うちの両親も一緒だったけど日帰りスキー旅行に行った仲じゃない?
 それなのになんなの、この塩対応は!

 そりゃあ、私もこの相澤くんの塩対応の秘密を知ってしまってからは、そんなにツッコミを入れる気もなくなってしまったけど。
 防衛対策なんだよね。
 相澤くんは小さい頃から顔が女の子みたいだといじめられてたって聞いて胸が痛んだ。
 今は美形のかっこいい系な相澤くん。
 愛想を振りまくと面倒くさいことになるからって、女子とはあまり話さないし、距離を取っている。
 私は相澤くんとは友達で、バイト先が一緒なんだ。バイト先はうちの本屋さん。
 相澤くんはバイト中はすっごく愛想が良くって、お客様からの評判も良く人気も高い。
 学校の相澤くんとは大違いだ。

「神楽さん、いよいよだね〜。私はクジ引きってドキドキしちゃう」
「我妻さん、相澤くん、どうしよう! ……私、クジ引きがあるの、忘れてた。クジ運とかある方でもないし、じゃんけんとか弱いんだよね〜」
「ああいうのは当たったら当たったじゃねえの。仕方ねえよ」

 今日は授業が終わった後、ホームルームの時間にクジ引きが行われる。
 クラス委員のクジ引き……、公平という名の運の駆け引きだ。
 私は出席番号が7番だから、7番めに順番が回ってくる。

「それにしてもクラス委員を決め直すことになるとはツイてないよね〜。やりたい人がやれば良いとかって先生は言ってたけど、部活にバイトに他の委員会に入ってる子もいるのに。みんな毎日なにかと忙しいから誰もやりたがらないわよね」
「我妻さんはテニス部の部長でしょ? クラス委員と兼任はきついよね」
「ええ。神楽さんはバイトがあるんだっけ?」
「そうなんだよ〜。自分のうちがちっちゃな本屋さんでね、手伝いしてるんだ」

 ううっ、クラス委員になるとけっこう大変だって聞いてる。行事ごとにクラスをまとめたり、率先して活動していかなくちゃならない。
 そうなると必然とアルバイトが出来る時間が減ってしまうわけで……。

 私、バイトの時間が大好きなんだ。
 お店のお手伝いも楽しい。――なにより、相澤くんとおしゃべり出来たりが楽しくって。学校でも会えるのに、うちの本屋さんで働く相澤くんを眺めるのも、一緒に作業をするのも好き。
 だってすっごく楽しい。

 クラス委員になったら、その時間が削られちゃう。……もしなっちゃったらどうしよう?

「うちのクラス委員って男子代表も女子代表も二人とも同時に生徒会に入ったのか?」
「そうなのよ、だから決め直し。さすがに生徒会とどっちもはね〜。でも今さら決まってたのに私は迷惑だけど。それにあの二人付き合ってるってうわさ、知ってた? 神楽さん、相澤くん」
「ふーん」

 おお、相澤くんは相変わらずの塩対応。美人でクラスで人気の我妻さんにも素っ気ない。

「へえ、そうなんだ。付き合ってる二人で生徒会をやるとかすごく意識高いよ、偉いなあ」
「なに言ってんの。ずっと一緒に過ごしたい、遅くまで一緒にいたいからに決まってるじゃない。生徒会の活動だったら親も誰も文句言わないもの」
「そ、そっかあ、そうなんだ」
「そういうものよ。鈍いわねえ、神楽さん。まあ、中には得も利点もなくてやる人もいるだろうけど。人のためにとかってお人好しっているのよ。ねえねえ……相澤くんはやらないの? 立候補しても良いんだよ。私と一緒にやらない? クジの前の今なら立候補受けつけてるよ」
「……なんで俺がやるんだよ。忙しいからパス。……俺に馴れ馴れしく話しかけんな」

 ――んっ?
 我妻さんの瞳が熱を帯びたように相澤くんを見ている? 気のせい?

「全体のクジ引きで決まったらパス出来ないけど?」
「だよね。ああ、クラス委員になりませんよ〜に!」
「私、相澤くんとなら、クラス委員になっても良いなあ」
「えっ?」

 我妻さん! な、なんて言った〜?
 や、やっぱりあの視線は見間違いじゃない。今のは絶対、聞き間違いなんかじゃない。我妻さんって相澤くんのことが好きなの?

 相澤くんは我妻さんの声が聞こえているだろうし、彼女からの視線も気づいてるっぽい。
 でも、相澤くんは聞こえない振りしてそっぽを向いて窓の外を見てる。

 私、胸の奥がざわざわとしてきた。
 どうしよう。
 クラス委員になって相澤くんと一緒にいられるバイトの時間が減るのもイヤだし、我妻さんの相澤くんへ向けてる熱っぽい甘い視線も……なんかイヤだなんて思ってる。
 そんな蕩けそうな顔して、相澤くんを見て欲しくないだなんて。
 私に言える権利もないのに。
 ああ、我妻さんってまさか、相澤くんと近づきたくって私と仲良くなりたいとか言ったんじゃないよね?
 我妻さんはこの前、友達になろうって言ってくれた。
 だけど……。
 ああ、ざわついて、心が騒がしくなる。

 ……こんな時でも、相澤くんって悔しいけどかっこいい横顔してんな〜。


        🌸


 この日の私はアンラッキーなことだらけだった。
 ランチに食べるつもりだったママの特製の三色お弁当は忘れてきちゃうし、購買のパンは売り切れで、慌てて買いに行った自動販売機のおにぎりはあまり好物でもない梅干しのおにぎりしかなくって。苦手な数学ではさされちゃうし、口内炎が出来てて痛い。

 ――極めつけはこれ!
 いよいよその時がきました。
 クラス委員の選考のクジ引きの時間です。結局誰も立候補は出なかったんだ〜。
 男女ともにクジをやるので、出席番号が書かれた紙が入った箱は一つしか用意がなく。先に女子からってことになった。
 男子は廊下で待っていた。
 
「女子のクラス委員は出席番号7番の『神楽咲希さん』に決まりました〜!」

 もお、ツいてな〜い!
 今日はとことんアンラッキーが続いてるよ〜。
 これで6個目ぐらいの、ツイてないこと……プチ不幸の連続。

 あーあ、これでハッピーな相澤くんとの貴重なバイト時間も少なくなってしまう。
 だけど、なってしまったからにはしょうがない。頑張ってやろう。
 私はとぼとぼと帰り支度をして廊下に出る。

 次は男子のクジの番だったけど、結果は見なかった。
 わあ〜っ! っと、盛り上がってる声が背後から聞こえた。

 私は急に色々孤独な気分に包まれてる。
 友達の作り方もよく分からなくなってた。
 我妻さんが私と友達になってくれたと思ったのに、どうやら魂胆めいたものがあると気づいてしまい悲しい。
 違うって思いたいのに、我妻さんの視線の先が相澤くんを追いかけてるのを何度も見かけてしまった。
 我妻さんが私と友達になったのは、隣の席の私と仲良くなったら相澤くんとおしゃべりするきっかけになるから?
 そんな拗ねたような考えが渦巻いて、もやもやとする。
 移動教室も一緒に行くし、休み時間も我妻さんが私の席に遊びに来る。私は我妻さんに誘われてランチも一緒に過ごすけれど、あれもこれももしかしたらとか思っちゃうと、考え始めたネガティブな感情が湧いてきちゃうよ。
 いけないなあ。

 家に帰るまでにこんな暗い気持ちリセットしないと!
 せっかく相澤くんと楽しいバイトの時間なんだから。
 私はぼんやり廊下の窓から葉桜の桜並木を眺めていた。

 しばらくして昇降口の方に行くと、よく知ってる声がした。
 あっ、相澤くん? ……と我妻さんだ。
 ドキッとする。
 とっさに柱の影に隠れて、二人がいなくなるのまで待とうと思った。
 今は我妻さんに会ったらどんな顔をして良いか分からなかったから。ちゃんと笑顔でいられる自信がなかった。
 二人しかいない下駄箱になにも考えてない風を装って声をかける器用さがなくて、気まずくなりそうで。

「相澤くん、避けなくってもいいじゃない。私はね、相澤くんと高校に入って再会できて嬉しかったのにいつも素っ気ないんだから」
「話しかけんなって言っただろう? 俺は我妻と元々仲良くする気は更々無いから」

 え――っ!?
 どういうことっ?

 二人って高校に入る前から知り合いなの?
 聞こえてきてしまった会話に、がーん! って衝撃が私の頭に奔る。
 胸がぎゅっと痛い。
 苦し……い。

 これ、本日7個めのアンラッキーだ。

「あの泣き虫のカエデちゃんの方が良かったなあ。可愛かったわぁ、泣きべそかいて『ごめんなさい、ごめんなさい』って私に謝る可愛い相澤くん」
「そこ、どけよ。我妻、お前さ昔のこと蒸し返してきて不愉快なんだよ。俺は帰るから」

 相澤くん、すっごく不機嫌そうな声になってる。
 もしかして、小さい頃からいじめてきてた女子って……、我妻さんのことなの?

「どかないわよ。あの時も今も私は相澤くんのことが好きなのっ! ああ、前は可愛いから好きだったけど、今は顔が格好いいから男の子としてすごく好み」

 やっ、やっぱり! やっぱり我妻さんって相澤くんのことが好きなんだ。
 私は立ち聞きしてるのが悪い気がした。
 他人《ひと》の告白を盗み聞きするだなんて、良くないよね。
 でも、……ちょっと相澤くんのことが心配だ。
 いじめたのが、たとえ可愛さあまって憎さ百倍的なことでも、自分をかまって欲しくてやったことだとしても簡単に許されるようなことじゃない。
 だって、相澤くんは傷ついてきたんだ。
 素直で優しい、そんな相澤くんは自分の性格を変えてしまわなければならないほどに、意地悪する子たちの言動や行動ですごく傷ついてきたんだよ。

「私と付き合おうって何度言っても良いってオッケーしてくれないのは、あの子がいるからなんでしょ?」
「なんのことだ?」
「隠したって無駄だよ。相澤くんって神楽さんのことが好きなんでしょう? 気になってるんだよね」
「知らねえよ。あんな天然ボケ」
「そんな風にわざと素っ気ない風を装ったって相澤くんの気持ちが分かる」
「なに言ってんだ、我妻」
「あの子、神楽書店の子でしょ? 弱くて泣いてばかりの相澤くんのこと庇って私に喧嘩売ってきたからよく覚えてる」

 あー、こりゃ、私、すっごぉっく腹が立ってきた。
 カアッっと頭に血が上ってきた。
 弱いとか、そんなんじゃない。
 相澤くんは優しい人なんだ。
 優しいから、人を攻撃したり傷つけることが出来なかったんだ。

「付き合ってくれないなら、神楽さんをターゲットにしようかな」
「はあっ!? なに言ってんだ。あいつは関係ねえだろうがっ! 俺が我妻を好きになれねえだけなんだからな。だいたい、そんな腹黒で男に好かれるわけないだろ。いい加減にしろ、しつこいんだよ。俺を好きだとか脅すとかふざけんなよ」

 めっちゃ怒ってる。
 ……もしかして相澤くん、私のため?
 明らかに私の名前が出てから、声のトーンが変わった。
 ちょっと嬉しいとか思ったかも知れない私が不謹慎で。私、どうかしてる。
 よぎったのは、私のピンチをいつも助けてくれる相澤くんの顔だった。
 ホッとしたように息をつく、相澤くんの横顔が……好きだ。

 ああ、好きなんだ。
 自覚が、襲う。
 心にすとんと「相澤くんのこと好きなんだな私」って落ちてくる。
 なにか正体の分からなかった心の隙間、欠けてた部分にぴったりはまっていくかのように。

 ああ、そうだ。
 好きなんだ。

「私、手段を選ばないよ? 神楽さんに酷いことされるのが嫌なら、私と付き合いなさいよ、カエデちゃん」
「許さねえ、あいつになにか手出しでもしてみろ。我妻のこと、絶対に許さねえからな」
「私にはいじめなんて簡単に操れる。私の言うことってみんな聞くんだから。相澤くんが付き合ってくれないなら私にも考えがあるわ。相澤くんの大事な大事な神楽さんを集団で意地悪してやろうかなあ? 大嫌い、ああいう女! お人好しとか気が弱いのが悪いのよ」
「ふざけんな。その口閉じろ。……咲希の悪口をそれ以上言ったら、女だろうがマジで許さねえ」
「咲希って言った。ほーら、相澤くん、余裕が無くなったわね。気をつけて、本音が顔に出ちゃってるよ?」

 も〜、黙って聞いてられない!
 私は相澤くんと我妻さんの前に飛び出した。

「いい加減にして!」
「お、お前、いつから!」
「やあねえ、神楽さん。盗み聞きしてたの? 趣味悪いわね」

 そこにいたのは《《友達の》》我妻さんの別人だった。美人で親切そうな我妻さんの顔はもうしてなかった。
 歪んだ顔――、意地悪な目つき。
 我妻さんって、こんな顔をしてたんだ。隠していた本性は私のもっとも嫌いなタイプの女子だった。

「いい加減にしなさいよね! 性格が悪すぎんのよ、我妻さん。まずは昔に意地悪したこと謝るべきじゃないかなっ! 相澤くんはね〜、我妻さんのことはタイプじゃないって言ってるんだから」
「いい気にならないでよ。私の方がずっとずっと前から相澤くんを好きなんだからねっ。神楽さん、私の前から消えなさいよぉっ!」

 ドンッと私は我妻さんに押されて体がよろけた。
 足首がぐきっとイヤな音がした。

「咲希っ!」

 私は相澤くんに下駄箱の段差寸前で抱きとめられた。
 ちっ、近いなあ、相澤くんの顔が。
 頭がポーッとしてきて顔が熱い。

 足がすっごい痛いけど……、私の感情は恥ずかしさが勝ってる。

 我妻さんがものすごい形相で悔しそうにこっちを見てて、私は『ああ、またクラスに女友達がいなくなったなあ』とか呑気なことがよぎった。

 それからすぐにバタバタと何人か駆けつけてくる足音がして、騒ぎを見かけた生徒が先生を呼んできてくれたみたいだった。

「先生、ここです! さっき我妻さんが神楽さんを突き飛ばしました!」
「お前たち本当か? とりあえず我妻、職員室に来い。事情を聞くから。相澤、相澤は神楽を保健室に連れて行ってやれ」
「ああ、はい」
「きゃあっ!」

 ひょいっと相澤くんが私を横抱きにして立ち上がる。
 こ、こ、この体勢はお姫様抱っこってやつですよねっ!?
 きゃーっ、きゃーっ、皆の前でお姫様抱っこでとか恥ずかしい。

「だ、大丈夫です。歩けるから、私」
「暴れんな、咲希。言ったろ? お前が怪我したら俺が平気じゃないんだよ」

 私は相澤くんの男らしい腕に抱き上げられ、保健室に連れて行ってもらった。
 保健の先生が捻挫だろうけど念のため病院に行くようにって言いながら、湿布を貼ってくれた。
 少し保健室で休んでから帰るように言われ、私はベッドに横になる。

「あとで病院付き合ってやる。……痛むか?」
「ぜんぜん痛くないよ、大丈夫」

 ほんとは足がズキズキ痛むけど、相澤くんに心配をかけたくない。

「嘘、つくなよ。……痛いんだろ? ごめんな。怪我を防げなかった。俺のせいだ……咲希をちゃんと守ってやれなかった。またお前に助けられて、俺は情けねえよ」

 悲しそうな瞳でうつむく相澤くんの顔が切なくて。
 私はベッドの端に横かけて座る相澤くんに、せいいっぱい体を伸ばして思わず抱きついた!

「情けなくなんかないよ。怖くなかった? トラウマになってた相手に立ち向かったんだもん、相澤くんは偉いよ」
「あんな奴、怖くなんかねえよ。お前が怪我したり傷つく方が俺は怖い。黙ってて悪かった。あのままにしてたらお前がもっと危険な目に合うとこだった」
「……相澤くん」

 ぎゅっと抱きしめ返されて、相澤くんのあったかくて大きい手が背中に回される。
 はあ〜っと二人して安堵のため息をついた。

「今日はめっちゃアンラッキーな日だよ。クラス委員にはなっちゃうし、友だちになれたと思った我妻さんはあんなだったし。もー、聞いてよ、相澤くん。もうねえ、7個ぐらいイヤなことあった」
「7個もかよ。まっ、今日は俺も似たようなもんだけど。クジ、ヤバかったし。でも咲希が女子のクラス委員か。……なら俺はそれで帳消しかな」
「うんっ? クジがヤバかったって?」

 私たち、抱きしめあったまま、会話をしてる。
 なんだか離れがたくって。
 相澤くんを私は離したくなくて、離れたくなくて。

「俺、クラス委員になった」
「私と一緒! じゃあさ、じゃあさあ、私たち一緒じゃん! やったー! 相澤くんとクラス委員だあっ」
「お前、なんで喜ぶんだよ。クラス委員なんて嫌そうだったじゃん」
「相澤くんといられるなら嬉しいから。だってクラス委員になってバイトの時間が減ったら一緒にいる時間が減っちゃうから落ち込んでたけど」
「……あんたさ」
「えっ?」
「俺のこと、――好き?」
「ええっ、ええっと……」
「あの時の返事、聞いてねえし、教えろ。誰が好きなのか? 気になる奴いんのかって聞いてるのにのらりくらりかわすわ、誤魔化して逃げるわ。まったく……いい加減に答えろよ。なあ、咲希?」
「相澤くんは? 相澤くんはどう思ってるの私のこと」
「まあた、それだ。質問を質問で返しやがって。いいや、教えてやる」

 相澤くんは私を優しくそっと離して、じっと見つめてくる。
 ちゅっ――。
 唇に感触が! 柔らかい感触があった!

「これが答えだ。俺はお前が好き。咲希が好きだ。――で? お前の答えを教えろよな。……咲希っ!?」

 私は突然相澤くんにキスされたので、恥ずかしさで布団に突っ伏した。

「キ、キ、キスした?」
「気絶したんかと思った。大丈夫かよ。ああ、キスした。それがどうした」
「どうしたじゃあな〜い! ファーストキスだよ! 勝手に奪って〜」
「イヤじゃなかっただろ? 咲希が俺のこと好きだって、俺は感じてんだけど?」
「ううっ、イヤじゃない。……うん、たぶん好き……だと思う」
「じゃあ、いいじゃん」
「良くない。なんか良くないっ」
「よし。アンラッキーなんか吹き飛んだだろ?」
「7個もあったけど、吹っ飛んだ。……ほんとに私のこと好き?」
「ああ、俺はお前のことが好きだっていってるんだけど? ……すっげえ好きだ。ああ、俺、浮かれてんなあ」
「ううっ……なんでか敗北感がする」
「はあっ? 意味分かんねえ。なんで負けた気がするんだよ」
「ほんとに好き? ファーストキス、かっさらわれたからかな」
「あーもうっ。……ほんとだよ。咲希、お前のことが好きだっつってんだろ。 (俺もファーストキスなんだけど。……もう一回していいか?)
「えっ? 相澤くん、今なんて言った? 相澤くんの声、ちっちゃくて。下校の音楽で後半が聴こえなかったんだけど?」
「は、恥ずかしくってたまんねえぞ。何度も言うかっ! まったく、お前にはいっつも肝心なとこ聴こえてねえんだから」

 今は、いつもは塩対応な相澤くんが甘い雰囲気で。
 気づいた。
 たしかに彼にときめいてる私がいた。