「すごいな、君」

三輪さんが汗を拭きながらわたしに近づく。

「それに、今のは本気じゃないだろ?」

「⁉︎分かって・・・!」

「伊達に十五年近く剣術師範やってたからな」

(まさか、バレてたとは・・・)

驚いていると急にパチパチと音がする。

音は松平様が出していた。

「まさか三輪に勝つとは・・・勝った褒美に何かやろう。何がいい?」

(え!マジで⁉︎)

せっかくの機会だ。この機会を活用しない手はない。

(そういえば、わたしいつのまにか新撰組の役に立ちたいって思ってた・・・)

最初はそんなこと思ってなかったのに。

(みんなといるのが楽しい、からかな・・・?)

今思えば、屯所になんで狐火おいていてきたんだろう。

(そっか・・・わたし、新撰組のみんなの未来を変えたい・・・ううん、変える・・・!)

「わたしが求めるのは・・・仕事の斡旋?」

「む?」

ちょっと曖昧になってしまった。

「えっと、つまり・・・新、じゃない、浪士組が気持ちよくお仕事ができるようにして欲しいってことです」

実は新撰組、江戸に兄弟組織の新徴組というものがある。

新撰組が市民に「壬生浪」と恐れられていたのに対し、新徴組は市民の評価はすこぶるよかった。結果、新徴組は新撰組に比べ結構穏やかに解散できた。

つまり、新撰組も新徴組のように市民から好感度がアップすればその分新撰組の破滅も食い止められるはず・・・だということ。

「ふむ・・・欲がないな、其方は。まぁいいだろう」

顎を撫でながら松平様が呟く。


「本当ですか⁉︎」

「あぁ・・・だが、結局わしは何をすればいいのだ?」

「えっと・・・うーんっと・・・」

うまく表現できずに頭を抱えてしまう。そんなわたしの心情を読み取ったのか、松平様が言う。

「今でなくても良い。して欲しいことがあったらわしに書状を送れ。よっぽどのことがないがぎり協力しよう」

「あっ、ありがとうございます!」

「では下がれ。他の皆が待っておるぞ」



「あぁ!やっと来たぁ!」

わたしが大木さんに連れられてみんなのいた部屋に行くと既に部屋には新入隊士や芹沢さんたちは既に帰っていた。

「俺が先帰れって言ったんだ。時間がかかりそうだったしな」

「土方さん」

腕を組みながらわたしに近づく。

「で、何やってたんだ?」

「えっと・・・いろいろです。詳しくは話せませんけど」

「・・・分かった。おい!帰るぞ!」

「おぅ!」

それぞれ思い思いの時間を過ごしていたみんながわらわらと立ち上がる。

「あ!夕日だ!」

総司さんにつられて空を見そうになって慌てて下を向く。

(危なっ・・・灰になっちゃうところだった・・・)

みんなが夕日に見とれている間、わたしは唇を噛みながら下を向いているだけだった。