(なんで、なんでわたしが呼ばれるのよ!)

だけどこれは要望じゃない。命令だ。

わたしはできるだけ影を薄くいて端で縮こまっておく。

「恐れ入りますが、本日、粕谷、阿比留、神代、鈴木は病欠しております」

「あい分かった。そして今回集まってもらったのは他でもない、長州についてだ」

芹沢さんの言葉に頷いた松平様が続ける。

「最近、長州の動きがおかしい。よく見張っておくように」

「はっ!」

(え?それだけ?緊張して損した・・・)

「下がれ」

本当にこれだけだったらしい。わたし達は列を組んで部屋から出ていく。

(わたし、最後・・・みたい)

佐之さんの後に続いて部屋から出ようとする。

「・・・待て」

「は・・・?」

思わず聞き返してしまった。

(え?この人今待てって言った?なんで?え?)

しかしどんなに釈然としなくても命令は命令だ。わたしは戻って座り直す。

「其方が本宮か?」

「は、はい・・・」

「ほぉ・・・大木、本当に此奴が本宮なのか?」

「その通りです・・・と言いたいところですが髪色が違いますね」

(そういえば大木さんと会った時は髪染めてなかったね)

「大木はそう言っておるが・・・?」

つまり、弁解しろってことだろう。わたしは首にかけてあった例の道具を取り出して首から外す。

その瞬間、黒だった髪色は桃色に、目も茶色に戻る。

「おぉ、この女子でございます・・・!」

「そうか・・・本宮と言ったかな?その飾りはなんだ?」

「えっと・・・からくりの一種です。詳しい構造は知りません」

(ってかこの人、なんでわたしを残らせたの⁉︎)

「ふむ。そのからくり、わしにくれはしないか?」

「え?何言ってるの?嫌です。藩主でもやっていいことと悪いことあるんじゃないの?人の物を権力使ってとるなんて強盗と一緒・・・って、あ・・・」

思わず怒ってしまった。

(ヤバい・・・!ここでわたし、殺される・・・⁉︎)

緊張の数秒。その後、松平様が大声で笑い出した。

(え?何?なんで笑ってるの?)

「面白い!わしに説教するとは!気に入った!あぁ、そのカラクリは取らんから安心せい。その代わりと言ってはなんだが、一つ見せて欲しいものがある」

処罰されずにホッとしたがすぐに気持ちが切り替わる

「・・・何をすればいいのでしょう?」

「其方の剣術が見たい」

「え?なぜわたしの・・・?」

「其方、女子で浪士組に入ったのだろう?それ相当の実力はあるだろ?」

「まぁ、そうですけど・・・」

幼稚園から今までやってきた習い事の一つが剣術だ。と言っても型どうこうよりは実践に使えるようにをモットーにしていた剣術だったけど。

「ならやれるだろう?相手はこちらで用意する」

「・・・わかりました。だけどいくつか条件を設けてもいいですか?」

「なんだ?」

「わたしの相手は口が堅い人でお願いします。また、この試合は松平様とその相手、そちらにいる大木様以外には非公開です。そしてこの試合の内容及び結果はその三人の胸の内で留めておく・・・つまり、他言しないでください。それが条件です」

「確かにいくつか、だな・・・分かった。ちと待て」

松平様は大木さんに何かを耳打ちする。多分わたしの対戦相手だろう。

少しすると大木さんが誰かを連れてきた。

第一印象はひとまわり大きい佐之さん。

「初めまして。三輪と言います」

「こちらこそ、本宮です」

手を出そうとして慌てて引っ込める。

(握手するところだった!危ない危ない・・・)

「では試合を始めます。本宮様、模擬戦なので竹刀でよろしいですか?」

「はい。ありがとうございます」

竹刀を受け取ってから三輪さんと十分に距離を取る。

(うーん・・・多分絶対勝てえるけど・・・ちょっと苦戦したほうがいいかな?)

「審判は私は務めさせていただきます・・・では、初め!」

「・・・」

わたしも三輪さんも動かない。隙を狙っているのだ。

(このままだと埒明かないし・・・さっさと隙見せよ)

わたしはわざと腰に隙を作る。刹那、三輪さんがその隙を狙って飛び出す。

(でもそれも想定済みっと)

竹刀が腰に届く瞬間、飛び上がって避ける。

「なっ!」

空中にいる間も攻撃を受けるが、体を捻って避ける。

「よっと」

「な・・・!」

地面に降りた瞬間、竹刀を上に放り投げる。全員がその竹刀の行方を追っているうちに予め落下地点に移動。

「キャッチ!」

そのまま勢いで前にいた三輪さんを襲うが流石に避けられる。

「でも、それも予想済みだよっ!」

しゃがんから膝カックンの要領で足を三輪さんに当てる。

「ぐっ!」

今までと比べものにならないぐらい大きな隙ができる。

(後はそこを叩くのみ!)

「やぁ!」

竹刀が確実に三輪さんに届く!

「そこまで!勝者、本宮!」

「ありがとうございました!」