(まずはお客さん。次に近藤さん、土方さん、左之さんの順番で・・・)

出来るだけ音を立てずにそれぞれの前にお茶とお饅頭を置く。

(接客の仕方、本家のお手伝いさんから教えてもらっててよかったぁ~)

すべて置き終わってから静かに立って左之さんの斜め後ろに座る。

「あの、関係者以外この話は耳に入れてほしくないのだが・・・」

お客さんに申し訳なさそうに言われる。

(ふん。それに対する答えも用意しているんだもん!)

「いえ、わたしも関係者ですよ。ねぇ、近藤様?」

突然の言い方の変化に近藤さんは戸惑いながら頷いてくれる。

「これで大丈夫でしょうか?」

わたしが今までで一番の愛想笑いをお客さんに向ける。

「近藤殿がいいのなら・・・」

(よし!第一関門クリア!)

ばれないようにグッとこぶしを握る。そんなわたしを一瞥した後、土方さんが口を開く。

「で、会津藩の使者が来たという事は・・・」

「はい。あなたたちの扱いを伝えにきました」

その言葉を引き金にスッとみんなが姿勢を正す。

お客さん・・・会津藩の使者さん(誰かな、と思った時隣から左之さんが小さな紙をくれた。それによるとこの使者さんは大木静之助というらしい。聞いたことない人なんだけど)は懐から手紙をだした。

「芹沢鴨、近藤勇以下十五名を会津藩お預かりとする。以後は壬生浪士組を名乗るように。また、今後隊士を取る事も認める」

「「「はっ!」」」

(おぉ、かっこいい~!)

わたしは今、歴史瞬間に立ち会っている。

(タイムスリップしてよかったぁ~!)

「では、私はこれにて失礼する。そうだ、そこの女子」

「はいっ!」

急に話を振られてびっくりして飛び上がる。

「この茶請け、何処で見つけた?美味だったのでまた食べたいのだが」

「えっと・・・実はわたしもよく分かりません・・・でも、また来ていただけばお出ししますよ?」

わたしの精一杯の回答に大木さんはニヤッと笑う。

「その言葉、忘れる出ないぞ。では」

彼は颯爽と立ち上がっていつの間にか立っていた左之さんにつられて帰っていった。大木さんの気配が屯所から無くなった。帰ったのだろう。


「ふぅ、終わったぁ・・・って、あ・・・」

気が緩んだ瞬間、ペタリと座り込んでしまった。

(マジか・・・気が抜けたのかな・・・?)

「勝ちゃん・・・やったな・・・」

「あぁ・・・」

わたしの隣ではわたしと同じような体勢で喜び合っている土方さんと近藤さん。

「そういえば・・・お前、何処で茶の出し方なんて学んだんだ?」

「え?あぁ、本家のお手伝いさんからだけど?」

とにかく、壬生浪士組にとっての一大イベントは終わった。

「疲れたぁ・・・」

そっとこぼした独り言は誰にも聞かれることはなかった。