「でも、別れたくないの」

「かえちゃん……」

「圭くんと、別れたくない」

「なんで?」

「わかんない。わかんないけど、別れたくないの」

「駄目だよ。このままじゃ、かえちゃんが死んじゃうよっ」

つい声を荒げると、かえちゃんは諦めるように笑った。

「さすがに死なないよ。いち花、大袈裟」

「大袈裟じゃないよ。このままでいいわけないよ」

「……そうだね。あたしだって、もしいち花が圭くんみたいな人とつき合ってたら、きっと同じこと言ってる」

「それなら」

「でも……。それでも、別れたくないの」

かえちゃんは縋るように言って、ちいさな手のひらで顔を覆った。

どうしてあんな男のために、かえちゃんが苦しまなきゃいけないんだろう。
どうしてあんな男なんかに、綴が物のように扱われなきゃいけないんだろう。

誰かあの男を裁いて。

あんな男が裁かれないのだとしたら、こんなにも間違った世界はない。

へし折られたおもちゃのステッキにはしる亀裂を眺めながら、あたしはあの男の不幸を願った。