ティッシュ一ダースはさすがにオーバーだと思う。

だけど、たしかにチカくんの小説は涙を流さずにはいられなくて、出かける前に読んだことを後悔した。

もう一度鼻をかんで、ティッシュを一枚とる。
折って先端を尖らせ、こすらないように目尻と目頭を拭ってみたものの、それでもアイラインはぼやっと滲んだ。
化粧ポーチからアイライナーを引っ張り出してアイラインを引き直し、髪も軽くセットし直してから、あたしは家を出た。


紫とオレンジが混ざりはじめた空の下では、ネオン看板が競うようにぎらぎらと存在を誇示して、時間がよくわからなくなる。

足が重い。行きたくない。

憂鬱という名の重りを両足にぶら下げながら、かえちゃんの予約してくれたお店へ向かう。

葛見さん、お腹壊したりしないかな。
それか、家の鍵をなくして外に出られないとか、トイレの水が止まらないなんてことが起きてくれないかな。

しょぼい呪いと祈りをこめてみたものの、お店に着いて店員に予約席へ案内されると、あたし以外全員そろっていた。