3年前、美羽と迅を引き取ってくれていた養父母の一周忌を迅に知らせるために美羽は黒いパーカーを着て顔と髪を隠して舞龍の倉庫に行っていた。

そんな中、舞龍の倉庫では2年前に夜桜が解散させた族、毒蛇と抗争していた。

毒蛇は2年前と変わらず、卑怯な手を使っていて当時全国No.1の舞龍も少し押され気味だった。

「ねぇ、何してるの?」

美羽があえて空気を読まずに毒蛇の総長に聞きながら倉庫に入っていった。

「何って抗争だよ。抗争。女のお前にはわかんねぇよ」

「卑怯な手を使っている貴方たちに言われたくない」

美羽が挑発を込めて言った言葉に毒蛇の総長は顔を赤くした。

「うるせぇ!そもそも女のお前がこんな倉庫に何の用だ」

「迅龍に用があるだけ」

迅龍ー迅の名前が出て、毒蛇の総長は何か思いついたような悪い顔をして近寄ってきた。

「ふーん。じゃぁ、お前を人質にしたら舞龍は潰せるよな?」

「ッ!!そこの貴女、逃げなさい!危ないで……え?」

舞龍の幹部らしき人が話している最中に美羽は毒蛇の総長を倒していた。

「えっと…何が危ないんですか?うーん…まぁ、いいや。あなた方だと相手になりませんし、面倒なので全員まとめてきてください。地獄に送って差し上げます」

最後に音符がつきそうな口調で黒笑いをしながら挑発したのが効いたのか、全員まとめてきたが、美羽が全員倒し、総長の前に行った。

「ねぇ、またこんなつまんないことやってたの?ふふっ。もう少ししたら年少行きだって言ったよね?…望むならそうしてあげるけど」

「お、まえ、なに、もだ」

「…これでわかる?」

そう言いながら夜桜__桜蝶のピアスを見せた。

「ねぇ、解散か更生、どっちがいい?」

「…は?」

毒蛇の総長は意味がわからないというような顔をした。

「だから、どっちがいいの?」

ゴリ押されてようやく美羽の意図が伝わったのか毒蛇の総長は笑った。

「毒蛇、17代目総長の名に誓う。毒蛇は今日を持って解散する。そして新たに族を作り、夜桜に忠誠を誓う」

この宣言は次に作る族が真っ当な正統派でいることを誓いの儀の合図。

忠誠を誓われた族はそれに対して応えなくてはならない。

「夜桜、初代総長の名に誓う。黒蛇の誓いに応え、お前たちの作る族を支える。お前たちは白神だ。清く、正しいことを心がけ、導くことのできる族であれ」 

誓いの儀が終わり、毒蛇もとい白神の人たちは帰っていった。

「抗争中に突然すみませんでした」

「謝罪はいらない。こちらとしては助かった。ところでお前、何者だ?」

何者か問われた時、空気が一気に冷たくなった…が

「…咲か?」

そう迅に聞かれた。

「はい。そうですよ」

美羽が肯定した途端、迅が走ってきて抱き上げた。

「倉庫に来てどうしたんだ?変な奴に絡まれなかったか?」

「大丈夫ですよ。絡まれたとしますと毒蛇の方々だけですし」

そう言った途端、空気の温度がぐんと低くなった。

「…あいつら、殺す」

迅から溢れ出る殺気に舞龍のメンバーは震えていた。

「誓いの儀をし、正統派になった族は殺してはだめですよ。殺るなら誓いの儀をしていない非正統派の方々にしてください」

「…うん。わかった」

舞龍のメンバーは迅が殺気をしまったことに驚いていた。

なぜなら、迅が殺気を溢れ出すのは本当にやばい時だけ、だからこそ本当に怒っていると理解できるからだ。

それ故、誰も止めることができない。

「でもちょっと絞めていい?」

「ダメです。そんなことしたら、お兄様のこと、嫌いになりますからね」

迅に脅しに近い叱責をすると、他の舞龍のメンバーが目を見開いていた。

「「「…お兄様⁉︎」」」

「「…あ」」

「お兄様。自己紹介をしたいので下ろしてください」

美羽がそういうと迅は渋々美羽を下ろした。

「申し遅れました。私は舞龍初代総長河合迅の妹です咲と呼んでください」

そう言いながらカーテシーをするとみんな唖然としていた。

「咲、ちょっと上に来てくれる?」

迅の言葉に美羽は驚いた。

「お兄様、私はお…「いいから。大丈夫だよ」…わかりました」

美羽が了承すると幹部以上が幹部室に入った。

「おい迅!何でお前の妹が来れてんの?ロックはかけてあるだろ?」

幹部室に入ると1人が迅に対して怒鳴った。

「咲、いつもの?」

「はい」

そりゃバレるよなぁと笑っていると抗争中に危ないと言ってきた人が目を鋭くした。

「迅、どういう意味ですか?教えてください」

「咲はハッカーだ。俺たちより上のな」

敬語さんが興味深そうな表情をした。

「ハンドルネームは何ですか?」

「SAKURAです」

美羽が自身のハンドルネームを言った瞬間、幹部たちは驚いていた。

それもそのはず、ハッカの世界においてSAKURAは最強の存在。知らないハッカーはいない。

「咲、こいつらは大丈夫だから全部言っていいぞ」

「迅、全部って___っっ!」

どういう意味だ?聞こうと瞬間全員が息を呑んだ。

なぜなら、美羽がパーカーを取り、桜姫としての姿が露わになったからだ。

「世界No.1暴走族グループ夜桜初代総長、桜姫こと石見咲です。あと、桜蝶でもあります。本名は河合美羽ですが咲とお呼び下さい。舞龍の皆様、先日は全国No.1への到達、おめでとうございます」

美羽が自己紹介をすると迅を除いた3人は口をあんぐりと開けていた。

「…本物だ…てか迅!知ってて俺たちの会話を聞いてたのかよ!」

「ん?あぁ。俺の大切な妹の褒め言葉をたくさん聞けて良かったよ」

「なっ…」

2人が言い合いしている間、美羽はオロオロしだしたが誰かの手を叩く音が聞こえた。

「迅、柊斗。そこまでにしましょう。咲さんが困ってしまいますよ。迅を除いた他のメンバーのことはわからないでしょうから自己紹介をしましょうか。私は尾奈蓮斗です」

「尾奈柊斗。蓮斗の双子の弟だ」

「加賀仁だよ!そんでもってあそこにいるのが桜木大河だよ」

「よろしくお願いいたします」

「咲、そろそろ時間だろ?」

迅にそう言われて時計を見ると3時を回っていた。

ご飯を作るのは4時からで夜桜の倉庫に帰るには30分はかかる。

「そうですね。舞龍の皆様、今日は失礼します。お兄様は後でメールを見ておいて下さい」

迅に1周忌の日取りをメールで送って帰っていった。

そして美羽は舞龍の倉庫に通い詰めるようになった。




 
養父母と1周忌の当日、美羽だけでなく、迅にも心の傷ができるような出来事が起こった。





1周忌が終わった後、柊斗から迅に1通の電話がかかってきた。

「迅、雷狂が攻めてきました!」

雷狂は全国No.2の族。

力だけなら舞龍の方が断然上だが、雷狂は卑怯な手を使う。

だからこそ迅は急いで行った。
 
それをわかっている美羽も着いて行った。

そこにある黒い物体を忘れて___

後にそれを忘れたことを責めることになるとは気付かずに…

迅はバイクで倉庫まで行ったため、美羽より早く着いていたが、美羽が着いた頃には舞龍は幹部以上しか立っていなかった。

それに対して相手はまだ100人は残っている。

そんな中、美羽は相手が持っている黒い物体、拳銃が迅に向けられていることに気づいた。

慌てて自分の拳銃を取ろうとしたが、そこでようやく拳銃を置いてきたことに気付いた。

そこで頭に浮かんだ方法はひとつだけ…





パァン!





「咲!」
 
…自分が撃たれることだった。

美羽はどこの血管を避ければいいかわかっている。

だからそれが1番いいと考えたのだ。

美羽が撃たれた途端、倉庫には殺気で溢れかえっていた。

「…おい」

いつもの美羽とは似てもつかないような地に這うような低い声が出ていた。

「お前今、迅龍を殺そうとしたよな?何故だ?もし死んでいたらちゃんと責任取れるよな?あ゛ぁ゛?」

撃った本人は美羽の殺気に怯えているのか、黙って震えていた。

「出来ねぇならチャカなんて使うんじゃねぇよ!人を殺そうとすんな!」

そう言いながら美羽は返り血を浴びながら倒していった。















『桜蝶』















それは容姿や名前だけではない。















『桜の狂い咲き』















血を吸って桜が咲くように、美羽は返り血を浴びれば浴びるほど動きが速く、綺麗になる。

止められるのは美羽の家族だけ。

撃たれた1分後、美羽は雷狂の人をみんな倒して意識を失った。

その後病院に運ばれたが状態がいつ死んでもおかしくないくらい悪かった。










そんな美羽の状態に耐えられなかった迅が自殺した。









その日は美羽や迅の誕生日であり、養父母が死んだ日でもあった。










その後、奇跡的に目を覚ました美羽はコワレタ。










美羽はその後、自殺を図ったりした。

そして迅の葬式後、美羽は舞龍の人たちとは関わるのはやめた。

迅は家のことを詳しく言っておらず、居場所を隠すのは簡単だった。

〜弥生said〜

「これがみんなに言ってなかった美羽の闇。言ってなくてごめん」

そう言いながら海空と波瑠奈が頭を下げた。

「多分、今回舞龍にしたのはそのことと海のことだと思う」

波瑠奈から思いもよらない言葉が出てきた。

「何で海?」

雷華が疑問を呈してるあいだ、舞龍の資料を思い返していた。

「大和楓くん?」

考えても、海と同じ苗字を持つ、舞龍の副総長しか思い浮かばなかった。

「正解だよ。楓くんは海の弟。海のピアスも渡さないといけないしね」

…ピアス?

「「ピアスってどういうこと」」

晴華たちも疑問に思ったのか、海空たちに質問した。

「海蝶のピアスよ。私たちは死んだら他の3人が持ち歩いてもう一つは大事な人に渡すっていう約束をしていたの。弥生たちもそうでしょう?海は弟の楓くんに渡すことにしていたのよ」

僕たちの疑問を解消してくれたと共に、美羽たちには隠していたことを指摘された。

確かに竜也たちと4人でその話はしていた。美羽たちとは小4からの付き合いとはいえ、当時はまだ、信用できなかった。

だからその前から過ごしていたメンバーで約束していた。

「とりあえず今日は帰るね」

「は?もう帰んの?」

帰ると言った波瑠奈に竜也が疑問を呈した。

「海里に会いに行ってるから帰ってきたら美羽は壊れて帰ってくるでしょう?」

「そうか…」

美羽の言う“海里に会う”は族潰しの黒狼になることを指す。

海里は黒狼の時の名前。

海が死んだ後に作られた美羽の人格。

自分を守るために海が死んだ悲しみを憎しみを隠すために作られた人格。

海里ができても美羽のその感情は増え続ける。

だから海里になってその感情を吐き出す。

そして自分の負の感情を受けて美羽は毎回壊れる。

でも感情を溜め込むと爆発して人を殺しかねない。

一度、それが原因で人を殺しそうになった時がある。

それは美羽の養父母が死んだ時にできた葉月も同じだ。

美羽は壊れたら自傷行為をやり続ける。

唯一の救いはある程度したら家に帰ってくることだ。

だから止めるのは一緒に住んでいる海空と波瑠奈の担当。

万が一、こっちに帰ってきたら夜桜のメンバーで止める。

「また明日ね!」

そう言いながら2人は家に帰っていった。