今日、ローリーは婚約者に別れを告げた。

ローリーの怒号を無視して扉へと歩いて向かうマティルダ・ガルボルグは多少の抵抗はあったものの、あっさりと会場を去って行った。

『皆様、ごきげんよう』

そんな言葉を残して……。

幼い頃から城に出入りしている彼女のことはよく知っていた。
金色の髪と橙色の瞳はギラギラと輝いていた。
高飛車でプライドが高いマティルダに昔から苦手意識があった。

しかし魔法の力は強く、何においても彼女は優秀だった。
それはガルボルグ公爵に厳しく躾けられているからだろうとすぐにわかった。

マティルダは家柄、魔法の力と共に王太子の婚約者として申し分ないだろうと言われていた。
将来の結婚相手として意識することはあっても自分から話しかけることはなかった。
それは向こうも同じ。こちらに全く興味はないとでも言うように彼女は近づいても来なければ、他の令嬢達のように媚を売ることもない。
互いの距離感は何も変わらないままだった。

そんなある日、マティルダは人が変わったように、にこやかに話しかけてくることが増えた。
正直に言えば、感じるのは困惑だった。
今更、マティルダに普通に接することが恥ずかしいと感じていた。
なによりここで屈してしまえば負けたような気分になった。