マティルダの頬にキスして、ベンジャミンは自室に戻ってしまった。
初日に一緒にお昼寝したものの、あんなに美しい顔が常に間近にあったらどうなってしまうのだろうか。

(落ち着きなさい、マティルダッ!美人も三日までと言うでしょう?要は慣れ!慣れなのよ……!)

毎晩そう言い聞かせてはいるが、あっという間に一カ月経ってしまっている。
ふわふわなクッションを握りしめながらポツリと本音が溢れた。


「もう少し押してくれたら、わたくしだって……」


ベンジャミンはマティルダが嫌がることを絶対にしない。
しかし時には少し強引なくらいに押してほしい時もある。

我儘を言っているとわかってはいるが、嫌だと言っても一歩踏み出せなくて察してほしい複雑な乙女心である。
断り続けているせいか、なかなか一緒に眠るタイミングを逃してしまっていた。
トニトルスにも相談しているが『めんどくさい女。言えばいいでしょう?』とハッキリと言われて、ぐうの音も出なかった。

(いきなり毎日は無理だからお試しでやりましょう、って言えばいいのかしら。前みたいにお昼寝から試してみるのもいいかもしれないわ……!よし、この作戦でいきましょう!でも、ベンジャミン様に呆れられてしまうかしら)

悶々と考えていたマティルダだったが、グッと気合を入れるように手のひらを握り込んだ。
明日はベンジャミンの期待に応えるためにも勇気を出して一歩踏み出そうと決めて、マティルダは眠りについたのだった。