* * *



マティルダはゆっくりと瞼を開いた。
耳に届くのは小鳥の囀りと、強烈な花の甘い香りだった。

(ここは……?)

視界に映るのは花や緑に囲まれた天井だった。
マティルダが手を上げると花がある。
そして首を横に動かしても花、足元に視線を向けても花。
どこを見ても花だらけである。

(花……?どうして花が?もしかして、ここは天国なのかしら)

しばらくボーっとしていたマティルダだったが体を起こす。
マティルダの周りに敷き詰められるように置かれていた花々を両手ですくってから首を捻る。


「起きた?」

「……っ!?」

「よく寝ていたね」

「あなたは!」


黒いウサギの仮面をつけて、こちらを見ていたのはやはり『ベンジャミン』だった。
いつもキッチリと結えているパープルグレーの髪は緩く肩で束ねられている。
そして彼は右手で仮面を掴んで外す。
意識を手放す前に見た濃い紫色の瞳がこちらを見つめている。

(夢じゃなかった……)

ベンジャミンの素顔を初めて見たマティルダは目を見開いた。
眉目秀麗とはこのことを言うのだろう。
好みもあるかもしれないが、乙女ゲーム攻略者であるローリーやライボルトとは比べものにならないほどの美しさと色気である。