(……裏切り者はどちらなのかしら)

仮にも婚約者に婚約の解消を迫るのに、他の令嬢と親しげにしているのはいかがなものかとつっこみを入れたくなってしまうのは致し方のないことだろう。

割り込みや弁解は許さないとばかりにローリーの口から一方的に語られていくマティルダを責め立てる言葉。
どうやらこちらの話は一切、聞く気はないようだ。

そんな時、ローリーの影から薄紫色のレースがふんだんに使われているドレスを着て、ホワイトゴールドの髪を綺麗に纏めているシエナが現れる。
眉毛は八の字になっていてピンク色の瞳は潤んでおり、今にも涙が溢れてしまいそうだ。
震える手を祈るように組んでいる。


「ローリー殿下、ですがマティルダ様は国にとって必要不可欠な存在ですわ!それに婚約を破棄するなんて……マティルダ様の立場が」

「心配するな、シエナ。これは致し方ないことなんだ」


マティルダを無視して進んでいく断罪のシナリオは止まることはない。
本来ならば、マティルダは怒りを爆発させて魔法の力を暴走させ、シエナに襲いかかるがローリーによって押さえ込まれてしまう。
そして最後には暴言を吐き散らしながら騎士に拘束されて退場する。
今のマティルダには呆れすぎてそれをする気力もない。

元々、そうならないために今まで頑張ってきたつもりだった。