そのバーラウンジはホテルの最上階にあった。

広いフロアには臙脂色のモダンなボックス席が適度な間隔で配置されている。

天井にはアンティークなシャンデリアが飾られ、オレンジ色の間接照明が客を仄かに照らしていた。

解放感溢れる窓の向こうには、美しい都会の街並みが煌めき、レインボーブリッジが遠くに見える。

本当だったら、この美しい景色をうっとりと眺めていたいところだけれど、今夜の私はそれどころではなかった。

私と勇吾君は窓際の席に陣取り、カウンター席で肩を寄せ合って座る響さんと文香さんに視線を外せずにいた。

今夜の文香さんは黒いシルクのシャツに紫色のタイトスカート。

スカートにはスリットが入っていて、そのすんなりとした美脚を引き立てている。

響さんもコットンのグレーのジャケットにストライプのカッターシャツが良く似合っている。

私は目の前で頬杖をつきながらふたりの様子を伺う、勇吾君のスーツ姿を見て言った。

「男の人はいいよね。スーツを着ればどんなフォーマルな場でも溶け込めるもの。」

勇吾君はその視線を私に移した。

「メイメイだって今日は綺麗な恰好してるじゃん。可愛いよ。」

「・・・ありがとう。」

私はガラス窓にうっすらと映る、従姉の結婚式の時に着た、白いシンプルなワンピース姿の自分を見た。

首には成人式の日に両親から貰ったティファニーのネックレス。

本当だったらこんな風に大人っぽく着飾った私を、他の誰よりも響さんに見てもらいたかった。

なのにどうしてこんな離れた席で、他の女性との逢瀬を楽しむ響さんを盗み見るなんてことをしなければならないんだろう。

私達がしてることって、ただ自らの傷ついた心に、塩を塗るだけの行為なのではないだろうか?

でもここまで来たからには、最後まで見届けなければ。

そしてこの終わりを告げた恋心を甘いカクテルで飲み干してしまおう。

私はカクテルグラスの中のホワイトレディを少しだけ口に含んだ。