「それでは今日も自分のペースで無理なく身体を動かしていきましょ~!」

鏡張りのスタジオの正面で蛍光ピンクのブラトップを着たスタイル抜群の女性インストラクターがそう声を張り上げた。

私もヨガマットの上で呼吸を整える。

「足の裏全体で大地をしっかり踏みしめて~」

「背筋を伸ばし肩の力を抜いて~」

「ゆっくり鼻呼吸をしましょ~」

スー、ハー、スー、ハー

「腕は天井に伸ばして~」

「股関節は柔らかく~」

スー、ハー、スー、ハー

私はインストラクターの指示通りに、猫のポーズをとったり、英雄のポーズをとったり、三角のポーズをとったりした。

激しい動きは一切ないけれど、じんわりと汗が出ていい運動になる。

それに身体の隅々がしなやかになっていくようで、このヨガのクラスは私のお気に入りになっていた。

今日もつつがなくヨガのクラスを終えスタジオを出ると、響さんが私に「よお」と声を掛けた。

「お疲れ。」

「お疲れ様です。」

響さんの額にも汗が光っている。

きっと激しい筋トレを終えたばかりなのだろう。

「芽衣、大分身体が柔らかくなってきたんじゃない?」

「そうかも。」

「立木のポーズでもよろけずに綺麗にバランス保ってたし。」

「ぎゃっ!見てたんですか!」

「ああ。しっかりと。」

「恥ずかしいから見ないでください!」

「はははっ」

たしかにここのスタジオはガラス張りだから、見られてもおかしくないのだけれど。

「今日もメシ行くか?」

「はい。」

「じゃあ、いつものところでな。」

「はい。じゃあ、あとで。」

響さんはタオルで汗を拭きながら私に軽く手を振ると、トレーニングルームを出て行った。