「え?久保田ちゃんのお弁当、それだけ?」

職場での昼休み。

食堂で持参のお弁当の蓋を開けた私に、麻沙子(まさこ)先輩が声を掛けた。

「いつもはもう一回り大きなお弁当箱に、おかずを沢山詰めて持ってくるのに、どういう風の吹き回し?」

そういう麻沙子先輩は、いつもコンビニで買ったサンドウィッチと、パックの牛乳で昼食を済ましている。

今日の私のお弁当の中身は少量のご飯にトリのささ身に胡麻ドレッシングをかけたものと、ブロッコリー、ヒジキ煮、黒豆、以上。

「ダイエットを始めたんです。この前、体重を測ったら思ってた以上に体重が増えてて。すごくショックです。」

私は肩を落として同情を買うように、しんみりとそうつぶやいてみせた。

「ええ?全然太ってないよ~。気にし過ぎじゃない?」

「麻沙子先輩にそう言われても、まったく説得力ありません。」

麻沙子先輩は足も腰も細くて、少しの風でも吹き飛ばされてしまいそうな体つきをしている。

「はぁ・・・。麻沙子先輩が羨ましいです。」

「私は久保田ちゃんが羨ましいわ。だってお胸が大きいもん。私なんてぺったんこ。」

「・・・・・・。」

たしかに私の胸はFカップくらいある。

でもそれで得したことなんてない。

学生の頃は体育の時間に運動すると、胸が必要以上に揺れて男子の目が気になり、恥ずかしくて仕方がなかった。

満員電車でも胸が男性の身体にくっつかないように、苦労している。

胸が強調されてしまうから身体にピッタリとした服は着れないし、流行の服は皆スレンダーな女性に似合うように出来ているから、胸の大きい私が着るとなんだか野暮ったく見えてしまうのだ。

「私はぺったんこでもいいから痩せ体質になりたいです。」

「お互い、ないものねだりよね。」

麻沙子先輩はそう言ってふふふと微笑んだ。