気付けば、手を握りしめていて、口から反論の声が飛び出していた。

「お母さんはなにも分かってない! ただ独断と偏見だけで人を判断しないで! 自分の価値観を私に押し付けないで!」

怒りが込み上げてくる。

お母さんに反抗したのはこれが初めて。

なのに、苛立った感情は収まることを知らない。

「小春! お母さんに向かってなに言ってるの! 小春の将来のためを思って告げてるのよ!」

「だからって、楓くんとおばさんのこと悪く言わないでよ! 楓くんがどんな思いでお母さんにおばさんの耳のこと打ち明けたのか知らないくせに!」

あの時、楓くんの手が僅かに震えていたのに。

音のない世界でもおばさんは明るく生きているというのに。

「そう勝手に決めつけないでよ!」

その瞬間、パシッと乾いた音が響き渡った。

「小春! いい加減にしなさい‼︎」

右頬にぴりりと痛みが走り、叩かれてしまったのだと知った。

「……っ」

お母さんの怒りに火をつけてしまっては、もうどうすることもできない。

それに、これ以上言っても、お母さんにはなにも伝わらない。