『楓くんは、なにお願いしたの?』

無事、笹に短冊をくくりつけた後、楓くんに聞いてみた。

「“小春の願い事が叶いますように”って書いた」

楓くんの願いを聞いて、私のほうが焦ってしまう。

『じ、自分の願い事、書かなくて良かったの?』

なのに、楓くんはいつものように冷静だ。

「別にいいよ。小春の願いが叶うことが俺の願いでもあるから。もし、小春の願い事が叶ったら俺の願い事も叶うし一石二鳥だろう」

楓くんは、なんて優しいんだろう。

ほとんどの人は自分のことを書くのに、私の願いを一緒になって願ってくれる楓くん。

「そういう小春はなんて書いたんだよ?」

そう聞かれ、内心ギクっとした。

右手人差し指を立てて、唇の左端から右端へと指を動かして手話で楓くんに伝える。

『内緒!』

「おい、ずりーぞ!」

『もうすぐ、上映時間になるよ。行こ行こ!』

楓くんの言葉を遮って歩き出す。

「ちょっ、小春……!」

慌てて楓くんが追って来て、隣に来るなりブツブツと小言を言っていたけど聞こえてないふりをした。

本当は、“来年も楓くんと一緒にいられますように”って書いたなんて、恥ずかしくて本人の前では言えないよ。