それから数日が経った。

楓くんのおかげで、挨拶程度の手話をマスターした。

実際、学校で楓くんと唯花ちゃんに『おはよう』や『また明日』と手話で返せるようになった。

緊張のあまり緘動の症状が出たのは最初だけで、手話をしていくうちに緊張はほぐれて、今ではすんなりと手を動かすことができる。

今まで頷きを返すだけで精一杯だったけど、少しずつ変われてきている気がする。

なのに、私の心はずっと晴れなかった。

「なぁ、気になってるんだろ?」

隣にいる楓くんが俯いている私を見る。

「俺が手話できる理由」

……!

心を読まれてびっくりして楓くんを思わず見ると、彼は“やっぱり”と言う顔をした。

本当は、この前からずっと気になってた。

ーー『……別に、俺のことなんてどうでもいいだろ』

せっかく、楓くんと友達になれたんだし、楓くんのこと知りたいと思うけれど、楓くんは心の中にあるものを簡単に人に教えたくないというふうに見えた。

どうしたらいいものかと頭をぐるぐると巡らせていたのだ。

楓くんは、少し悩んだ後、なにか決意したように私にこう言った。

「なぁ、今日シフト入ってないし、うちに来る?」

えっ……⁉︎

あまりにも突然すぎる誘いに、私は目をパチクリさせた。

「小春にだけ教えるから」

楓くんの家に、なにか分かるようなことがあるのだろうか。

私は恐る恐る頷いた。