楓くんに連れられてやって来たのは体育館だった。

ここが楓くんの思い出の場所?

不思議に思っていると、楓くんはもうまさにこの場所だというかのように体育館の扉を開けた。

昼休みでも扉は施錠されていないっぽい。

楓くんは上履きを脱いで中に入って行ったから、私も慌てて上履きを脱いで彼の後を追った。

友達とわいわいはしゃいでいる教室も、さっき歩いていた時に見えたグラウンドで体を動かしている人たちがいて賑やかだったのに、ここだけ誰もいなくてとても静か。

窓から差し込む光が私たちを明るく照らす。

ちょうど体育館のど真ん中辺りに来た時だった。

「ここで、ちょっと待ってて」

楓くんにそう言い渡され、その場でじっと待つ。

なにをするつもりなんだろう?

楓くんが行く先を見守っていると、体育館倉庫からバスケットボールを1つ取り出して、私のところに戻って来た楓くん。

「なぁ、小春、覚えてるか? 以前、体育の授業で小春がパスできたこと」

『覚えてるよ』

確か、苛立ちをボールに込めて投げたこと。

緘動でできないと思ってたけど、楓くんのおかげで初めてボールを渡せることができた日。

今も昨日のことようにはっきりと思い出すし、これからも忘れるわけがない。

「あの時さ、小春が頑張ってる姿見て、すげぇ嬉しくなったんだよ。他の人にとってはほんの些細なことかもしれないけど、小春にとっては大きな進歩で、それを傍で感じた時なんだかこの子を守りたいって思った」

『楓くん……』

「だから、ここが俺にとって思い出の場所なんだ」

嬉しい。

嬉しすぎるよ。

思い出の場所にしてくれるなんて。