君が導き出してくれた私の世界


『なんで、さっき、みんな手話で挨拶してくれたの?』

思ってもみなかった質問だったのか唯花ちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、みるみるうちに優しい笑顔を浮かべて私に教えてくれた。

「それはね、春ちゃんが学校休んでいる間、葉山くんが1人ずつ春ちゃんのこと説明していたんだ。“小春は、わざと黙っている訳ではないんだ。話したくてもうまく声を出すことができないだけであって、本当は、みんなと仲良くなりたいと思っているし、みんなと楽しい学校生活を送りたいって思ってる”」

それは以前、スマホのメッセージで楓くんに私の本当の気持ちを打ち明かした言葉だった。

「それに、“小春は頑張り屋で手話も一生懸命覚えたんだ。だから、小春がまた学校来た時は仲良くしてほしい”って」

楓くん……。

私がいない間に、そんなことしてくれてたんだ。

1人ずつ説明って、相当大変だったんじゃない?

中には、分かってもらうのに時間かかった人だっているんじゃないかな?

でも、今ではクラス一丸となって私を温かくて迎えてくれた。

それは、全部、楓くんのおかげ。

「それにね、葉山くんは“小春が少しでも安心して過ごせるような環境にしたい”って言ってたんだ」

場面緘黙症になった人の中で、環境が変われば改善したと前にネットで見かけたことがあった。

それほど、本人にとって環境は重要なことだ。

「葉山くんって、春ちゃんのことになると、とことん一途になるよね」

『一途?』

そう唯花ちゃんに聞き返すと、こっそりと耳打ちで教えてくれた。

「それは、葉山くんがこんなにも春ちゃんのことを想っているってことだよ」

その瞬間、顔が一気に赤くなったのが自分でも分かった。

もし、私の気持ちと楓くんの気持ちが同じならどんなに嬉しいことだろう。