手を洗って、2階にある自分の部屋へと行く。

制服から普段着に着替え終えると、扉の向こうで鳴き声が聞こえた。

ニャーオ。

扉を開けると、入ってきたのは白い猫。

名前は、お餅(おもち)。

通称、もっちー。

白い毛並みで体を丸めると、まるでお餅みたいだという理由で両親がつけた名前。

兄弟がいない私に1人でも寂しくないようにと、私がまだ幼い頃、両親がペットショップで引き取ったメス猫で、それからはずっと一緒に過ごしている。

ぴょんとジャンプをし、私のベッドの上でゴロンとくつろぐ自由気ままなもっちーは、もうすぐ15歳を迎える。

だけど、人間の年齢に例えると私やお母さんたちの年齢をあっという間に追い越して76歳になる。

おばあちゃん猫だけど、まだまだ元気でいてくれる。

「あのね、もっちー。今日、学校で良いことがあったの!」

私にとって、もっちーが話し相手。

猫に話が通じるわけないけれど、その日起きた学校での出来事を話すのが私のストレス発散法になっている。

傷つくような言葉を言われてイヤな思いをしたこと、いないもの扱いされて悲しかったことなど。

いつもネガティブな話しかできないけれど、今日は違った。

「隣の子と英単語の出し合いができたんだ!」

みんなとは少しやり方が違うけれど、それでも彼とできたことに喜びを感じる。

「それに、あんな言葉を言ってくれて嬉しかった」

葉山くんの言葉が、今もまだこんなに胸に焼き付いている。