「もう、分かりましたから。頭を上げてください」

おばさんに圧倒されたのか、ついにお母さんは赦しの言葉を言った。

だけど、おばさんには聞こえておらず、頭を下げたままだ。

「ちょっと、どうすればいいのよ……どうやったら伝わるの」

お母さんは完全に困ってしまいおどおどしている。

もう2人の姿を陰で見ていられなくなって、階段を降りて玄関へと向かった。

「小春……」

お母さんは、私を見るなり言葉を漏らす。

未だ土下座したままのおばさんの肩を軽く叩いて、私がいることに気付かせる。

『おばさん、もう大丈夫ですよ』

優しく手話で伝える。

『で、でも……』

『頭を上げてってお母さんが言っています』

そう伝えると、おばさんは恐る恐る頭を上げて、ゆっくりと立ち上がった。

すると、お母さんは私にあることを頼んで、私はそれをおばさんに手話で伝える。

『お母さんがなにか話したいことがあるそうなので、そのスケッチブックとペン貸してもらってもいいですか?』

『ええ、いいわよ』

『ありがとうございます』

お母さんはそれらを受け取るとペンを走らせた。

【私の方こそ、すみませんでした。貴方様の気持ちを分からずに深く傷つけてしまい申し訳ございませんでした】

……お母さん。

【あと、楓くんにこれからもうちの娘と仲良くして欲しいと伝えてもらってもいいですか?】

そのお母さんの言葉に、おばさんだけではなく私まで嬉しくなった。

【もちろんです】

そう文字を書いたおばさんの表情は見るからにとっても幸せそうな笑みを浮かべていた。