○前話の続き。

潤「葉澄くん、わたしたち」

 別れよう――。
 潤の言葉に呆然とする葉澄。ハッとする。

葉澄「ごごごめん、重かった? 実はアレンにも、『お前の恋愛観は重すぎる』なんて言われちゃって。……ひ、引いた?」
潤「……ううん、そうじゃないの」
潤「ごめん……、わたし、また引っ越すの」
葉澄「え?」
潤「だから、この指輪は受け取れない」

 サイズが合っておらず、少しぶかぶかの指輪を返す潤。

潤(転校ギリギリまで言わないでいようって思ってたけど……)
潤(指輪なんて受け取れないよ)

葉澄「引っ越すって……いつ?」
潤「三月」
葉澄「三月って、まだ半年もあるじゃん。どこに引っ越すの?」
潤「……北海道……」
葉澄「の、どこ?」
潤「札幌」
葉澄「札幌……」

 スマホで何かを調べ出す葉澄。目当てのページにたどり着くと、潤に画面を見せた。

葉澄「二時間もかからないくらいなんだ。近いね」
潤「いや、全然近くないよ⁉」

 東京→北海道の移動手段のページで、飛行機だと約一時間四十分、片道約六千円ほど。
 往復で一万二千円は高校生の金銭感覚ではとても気軽に行き来できる距離ではないのだが……。

葉澄「俺、会いに行くよ」

 さらっと言う葉澄に潤は首を振る。

潤「だめだよ、そんなの。ただでさえ学校と仕事で大変なのに、無理してほしくない」
葉澄「無理じゃない。ていうか、引っ越しくらいで別れるとか、ありえない。付き合うときにそう言ったよね?」
葉澄「潤がこれまで付き合ってきた男と一緒にしないで」

 一途・芸能人・稼いでいる……というハイスペックな葉澄からしたら、飛行機に乗って会いに行くくらいどうともないらしい。

葉澄「それとも潤は俺と別れたいの?」

 葉澄の電話が鳴る。画面に「マネージャー」と出ているのが潤からも見える。
 仕事の連絡らしいが、葉澄は出ない。

潤「葉澄くん、電話……」
葉澄「いい(でない)」

潤「だめだよ、仕事の電話でしょ」
葉澄「潤との話の方が大事!」
葉澄「ちゃんと答えて、俺と別れたいの? そうじゃないなら、別れる必要ないよね?」

潤(別れたくないよ、わたしだって)
潤(離れたくない。でも――)

 ブーブー鳴り続ける電話。
 潤 or 仕事なら、葉澄は潤を優先してしまう……。
 それではダメだと思う潤は、ぎゅっと目を瞑って拳を握り、心を鬼にした。

潤「別れたい。わたしには葉澄くんの気持ちは重すぎるよ」

 葉澄の目を見てキッパリ言う。

葉澄「…………」
葉澄「……わかった」

 葉澄はようやく通話ボタンを押した。

葉澄「はい。……はい、すみません。今行きます」

 電話をしながら教室を出ていく葉澄。
 辛い表情の潤。
 一人になった教室でぽろぽろ泣いてしまう。

潤(ごめんね、葉澄くん)
潤(でも)

『二時間で行ける』や『結婚しよう』と言ってくれた葉澄の顔がよぎる。

潤(葉澄くんにそこまでしてもらえないよ)

 一方的に葉澄に愛情を向けてもらうのは違うと思う潤。
 じゃあ、自分に何ができるのか? それは、今ブレイクし始めている葉澄の仕事を邪魔しないことなんじゃないか。

 『仕事を頑張りたい』と言っていた葉澄の顔も思い出す。

潤(これでいいんだ。わたしのことなんて嫌いになって、最低な女だったなって過去のことにしてもらえれば……)