○放課後。
 「しつれいしました~」と職員室から出てくる潤とクラスメイト男子。
 二人は日直で日誌を出しに来たところ。

男子「じゃー、ごめん。佐々木さん、俺部活行くから!」
潤「うん。またねー」

 鞄を持って玄関に向かう男子と別れ、手ぶらの潤は階段を登って教室に帰る。

潤(葉澄くんは仕事に行っちゃったし、わたしも早く帰ろ……)
潤「あれ?」

 教室の前では蒼が待っていた。

潤「蒼くん? どうしたの?」
蒼「潤ちゃんに用事。待ってたら帰ってくるかなって」

 からっぽの教室には潤の鞄だけ残っており、黒板の日直の欄には「佐々木」「狭山」と書かれている。日誌を届けに行っているだけだろうと判断して待っていたらしい。

蒼「……御門先輩は?」
潤「今日は仕事。授業終わってすぐに出てったよ」
蒼「そうなんだ(邪魔者がいなくて嬉しい笑顔)」
潤「ところで、用事って?」
蒼「潤ちゃんと一緒に帰りたいなって。ダメ?」

 あざとカッコイイ蒼の姿に、

潤「いいよ! 帰ろ帰ろ!」

 笑顔でOKする潤。ドキッともしてくれない潤の姿に蒼は「……」。
 でもめげない。
 日直欄の名前を消し、二人は教室を出て歩きながら雑談。

蒼「そういえば友達は?」
潤「彩香は塾で、ちひろは部活(野球部のマネージャー)だよ」
蒼「へー。潤ちゃんは部活やらないの?」
潤「う、うーん……。楽しそうだけど、迷惑かけちゃいけないしさ」
蒼「迷惑?」
潤「昔から引っ越し多かったから。……ほら、チームとかだと、試合前に抜けることになったら大変でしょ?」
蒼「……そっか」

 明るく笑いつつもどこか寂しげな潤が気になる蒼。
 潤は話題を変える。

潤「蒼くんは? 部活」
蒼「俺はサッカー部」
潤「サッカー! カッコイイね、似合いそう! 蒼くん、足早そうだもんね~」

 蒼は子どもの頃の潤が『蒼くんカッコイイし、バスケとかサッカーとか似合いそうだね!』と言ってくれたことを思い出してふふっと笑う。

蒼「変わらないな、潤ちゃん。昔も俺におんなじことを言ってくれたんだよ」
潤「え、そうなの?」
蒼「うん。それで俺、サッカー始めたんだ。始めたら友達もたくさんできて楽しくってさ」

 子どもの頃はいじめられがちだった蒼だが、サッカークラブに入ってから友達も増え、女子にもモテるようになり、自信がついた。

蒼「全部、潤ちゃんのおかげ」
潤「ええ⁉ そんな、大げさだよ……」
蒼「大げさじゃないよ。潤ちゃんにとってはたくさんいる友達の一人かもしれなかったけど、俺にとってはすごく特別な子だったから、再会できて嬉しかった」

 甘い顔で真摯に見つめてくる蒼。
 潤は「いや~、そんなこと言われると照れちゃうな~」と冗談っぽく返す。
 何を言っても本気に取られない蒼は、階段を下りている最中で壁に手をつく。

蒼「俺、本気だよ?」
蒼「好きだよ、潤ちゃん」
潤「!」

 告白されて驚きのあまり足を踏み外しそうになった潤を軽々と支える蒼。
 階段、放課後、男の子。過去のことを思い出した潤はハッとする。

潤「蒼……くん……?」

 引っ越しが決まり、母親と共に小学校に別れの挨拶しに行った潤を走って追いかけてきてくれた男の子がいたことを思い出す。

子ども蒼『潤ちゃん! 俺、潤ちゃんが好きだよ……!』
子ども潤『ありがとー! わたしも蒼くんのこと好きだよ! 元気でね~!』

 蒼の恋心は潤にまったく伝わっていなかったが……。
 ようやく彼の言う「好き」が恋愛的な意味だと知り、潤は赤くなる。(はじめて蒼を異性として意識する)
 支えられた状態から蒼に抱きしめられて慌ててしまう。

潤「あ、あの、でも、わたしっ、付き合ってる人いるからっ」
蒼「うん。でも、芸能人なんかより俺の方が潤ちゃんの側にいられるよ」
蒼「……お願い。ちょっとでもいいから、考えて」

 抱きしめられたまま困る潤。
 二人が抱き合っている様子を、潤に見えない位置で美織がスマホで撮影していた。