〇学校にて。
 朝の「付き合ってる」宣言から始まり、葉澄は席に着いてからも潤にべったり。
 授業中に視線を感じて隣を見ると葉澄がとろけそうに幸せな顔で潤を見ている。
 午前中で早退するときも名残惜しそうで……。

〇お昼。ちひろ&彩香とのお弁当の時間はすっかり恋愛相談室となっていた。
 葉澄がいないのをいいことに、机に突っ伏してぐったりしてしまう潤。

潤「心臓が持たない」
ちひろ「いやーすっごいね、御門くん」
彩香「人格変わっちゃった?」
潤「本当にそれ……」

 出会ったときはクールで愛想もなかった葉澄。
 今は別人かと思うほど潤に甘々だ。

ちひろ「っていうか、結局告白OKしたんだ?」
潤「実は……」

 かくかくしかじか。週末の一件を話す。

彩香「お試しで付き合う、かぁ……」
ちひろ「お試しか? 御門くんの方は、もうなんか結婚決まりましたくらいのノリじゃん」
彩香「お試しだからじゃないの? 潤に捨てられたくなくて全力アピールしてるんじゃ?」
潤「捨てたりなんかしないよ。というかそもそも、わたしなんかの何がそんなによかったのかさっぱりわからないし……」

 教室の外には人だかりが。
 御門葉澄の彼女は誰だ? と学校中から野次馬が集まり、潤を指さしている。
 潤はなるべく野次馬の視界に入らないように顔を隠してしまう。

潤「ううう、わたしなんかが彼女ですみません……」
ちひろ「有名人の彼女も大変だねー」

 紙パックのジュースを飲みながらちひろは他人事。
 お弁当を食べていた彩香はキリッとした顔で「甘い!」と言った。

彩香「潤、そんなんで御門くんとやっていけるの? あんなに格好いい人、もしかしたらすぐに取られちゃうかもしれないよ⁉」
ちひろ「えーでも、話を聞く限りじゃコミュ障っぽいし……」
彩香「ちひろは黙ってて。超スーパー陽キャモデルが御門くんの心を開いちゃうかもしれないじゃん」
潤「確かに」

 納得してしまう潤。
 彩香は「納得してどうするの!」と潤をびしっと差した。

彩香「お試し期間っていうのはね、こっちも試されてるのよ!」
潤「!!!」

 雷が落ちたかのような衝撃を受ける潤。

彩香「御門くんのこと、好きかどうかわかんない……(乙女なポーズ)、とかやってるうちにあっという間に試合終了よ。潤はこれまでみたいに転校して自然消滅……みたいになるのが嫌なんでしょ⁉」
潤「イエッサー」
彩香「じゃあ、今のうちにしっかり彼の心を繋ぎとめておかないと!」
潤「アイアイサー」

 鬼軍曹モードの彩香の熱い指導に思わず返事をしてしまう潤。

彩香「そこにピッタリのイベントがあります!」
潤「おおっ!」

 バーン!
 彩香がチラシを出す。
 『ドラキュラ邸からの脱出』という脱出ゲームのイベントだった。

彩香「これ、カップルで参加しない? 謎解きイベントで二人の距離もぐっと縮まるかも」
ちひろ「彩香ん家のパパの会社のイベントじゃん~!」
潤「えっ⁉」
彩香「まあまあまあ、ここにチケットがあります。御門くんと楽しんできてさ、で、良かったらなんだけど御門くんのインスタとかにちょーっと取り上げてもらえたらぁ~とか……」

 ダメ? と上目遣いの彩香。
 真面目な優等生な見た目とは裏腹にかなりちゃっかりした性格のよう。

潤「うーん……その辺は御門くんに聞いてみないとわからないけど……、でも楽しそーっ!」

 チケットを受け取る潤。

ちひろ「いーなーっ! あたしも行きたい」
彩香「じゃ、あたしと行こっ。はい、ちひろのぶん」
ちひろ「やった~!」