〇潤は私服姿で一人、カフェにいる。
 おしゃれでおいしそうなランチセットを前にしてウキウキ。

潤(わ~! おいしそ~!)

 写真をパシャ。カフェめぐりが好きな潤のフォルダにはこれまで行った店の写真がたくさんある。

潤(今度、一駅向こうにも行ってみよ!)
潤(夕食はどうしようかな。どこかでテイクアウトしようかなぁ……)

 一人の時間を満喫して過ごす。
 食べ終わった潤は街をぶらぶら。ふと、街頭テレビのニュースが目に入る。
 『A市で連続空き巣被害』のテロップ。
 犯人は逃走中で捕まっていないという。

潤「A市って……家の近所じゃん。……ん? あれ? わたし、家出るときに窓の鍵閉めたっけ……?」

 記憶がなく、さーっと青ざめる潤。
 大慌てで家に帰る。
 夕方四時半ごろに家に着き、窓を確認すると……。

潤「閉まってた~! 良かった~!」

 やれやれ……と思うが、窓の外には男物の靴と思われる足跡があった。
 昨日の雨で柔らかくなった地面を複数回往復したような形跡がある。
 空き巣が外から物色していたのかも……と思い、ゾッとする潤。

潤「だ、大丈夫、だよね。鍵かけたし」

 二階からは何かが倒れたようなガタンという物音。潤は飛び上がるほど驚いた。
 一人でいるのが怖くなってしまう。
 ちひろや彩香に連絡してみようか、とスマホを取り出すと、葉澄からのメッセージが来ていた。
 『空いてたらでいいんだけど、良かったら来週出かけない?』
 潤は咄嗟に通話ボタンを押す。葉澄はすぐに出た。

葉澄『もしもし』
潤『あ、御門、くん?』

 潤はプチパニックのまま葉澄に電話をかけてしまい、喋ることを何も考えていなかった。

潤『あの、えっと……』

 言葉に詰まる潤。葉澄は勝手に誤解する。

葉澄『あー、あの、ほんと、空いていたらでいいっていうか。「暇?」みたいなノリで聞いちゃっただけで、佐々木さんが嫌だったら全然断ってくれていいから』
潤『え? あ、違うよ、あのっ』

 いつもと様子が違う潤の様子に葉澄は何かを察する。

葉澄『どうしたの? ……何かあった?』
潤『大丈夫、何もないんだけどっ!』
葉澄『嘘。何かあったって声してるよ』

 心配そうな葉澄の声。

潤『……あ、空き巣、が』
葉澄『は⁉』
潤『あ、えとね、うちの近所に空き巣が出たらしくて。で、わたし、今、一人で留守番してて、その、なんか心細くなっちゃってさ。ごめんね、急に電話なんてして』
葉澄『わかった。今すぐ行く』

 しどろもどろな潤に葉澄は真剣な声で返す。
 潤は慌てた。

潤『えっ⁉ いいよいいよ、大丈夫だよ』
葉澄『ダメ。心配だから。すぐ行くから住所送って』
潤『…………』
葉澄『俺、駅に向かうから』

 ぶつっと電話が切れる。
 潤は迷ったが、心細さから住所を送ってしまう。
 葉澄は移動中もこまめにスタンプやメッセージを送ってきて、「駅着いた。走る」を最後に連絡が途絶えた。潤はアパートの外に出て、おろおろしながら葉澄を待つ。やがて、葉澄が走ってきた。

潤「み、御門くん。ごめんね」
葉澄「平気だよ。それより空き巣って……。さっきニュース調べてみたけど」
潤「うん。窓の外に足跡があって……わたしの部屋で物音とか聞こえたから、怖くなっちゃって……」
葉澄「佐々木さんの家族は?」
潤「お父さんは出張で、お母さんも明日まで留守で……」

 険しい顔をした葉澄は「入ってもいい?」と家を差した。

葉澄「一応、俺が中、確認しようか? 入って欲しくないところには入らないし、変な奴が潜んでないか確認するだけでも気が楽になるかも……」
潤「本当? ありがとう……。部屋にも戻れなくて」

 葉澄を前にして家の中に入る。
 物音がしたという潤の部屋におそるおそる入ると、壁にかけてあった時計が落ちていた。重さで壁に刺したフックごととれたようだ。葉澄の背中から出てきた潤はほっとする。

潤「あ、なんだ。時計……!」

 葉澄は窓に鍵がかかっていることを確認。クローゼットも空っぽ。
 二人で他の部屋もチェックしたが、泥棒が潜んでいるような痕跡はなかった。
 潤は恐縮してしまう。

潤「ごめんね、御門くん! わたしったら騒いで恥ずかしい……!」
葉澄「いいよ。……頼ってくれたの、嬉しいし」

 イケメンモードの葉澄にきゅん。

葉澄「それより、夜は大丈夫?」
潤「うっ。ネカフェとかで時間つぶそうかなって思ったけど、家、留守にしないほうがいいよね?」
葉澄「泊まろうか、俺」

 葉澄は自分で提案しておきながら慌てている。

葉澄「佐々木さんが嫌じゃなければだけど! もちろん変なことはしないし、俺は居間とかで寝るから!」
潤(男の子を泊めちゃっていいのかな? で、でも、一人ってやっぱり怖いし……。心配、してくれてるんだよね……)
潤「……御門くんの迷惑じゃなければ……」

 小声で頼む潤。
 受け入れてもらってほっとした葉澄のお腹がぐう~っと鳴る。

葉澄「ごめん……」
潤「は、走ってきてくれたからお腹すいてるよね!」

 と言っても、潤も夕食の買い物をすることなく帰ってきてしまった。
 冷蔵庫の中を確認。

潤「えっと、カレーとかでよかったら作るよ」
葉澄「作ってくれるの⁉」
潤「うん」
葉澄「俺も手伝う」

 腕まくりする葉澄は子どものように無邪気で楽しそう。
 二人でカレーを作り、出来上がったお皿を前にいただきます。
「おいしい!」と笑う葉澄。
 カレーは豚肉派か牛肉派かなどの他愛のない話をする。葉澄は学校にいるときも表情豊かでよく喋っていた。